真の姿Ⅺ
空へと上がったのならば、次の行動は簡単に推測できる。上空からの一方的な攻撃か、急降下による襲撃。どちらにしても対抗手段が存在しない。
「こんな時にウンディーネがいたら……」
黒騎士隊長と同じ語源の名をもつ少女、ソフィ―。人の身でありながら、ウンディーネとして長い月日を過ごした彼女であれば、水を操って対応できたかもしれない。
だが、彼女はカルディアからは遠く離れたファンメル王国で過ごしている。助けを求めたところで、救助は得られない。
地上の炎が徐々に弱まり、火の粉だけが残る。それも数秒で消えてしまった。
「……待て、何かおかしいぞ?」
最初に異変に気付いて呟いたのは、神殿騎士だった。彼の指差す先には天掛けるラドンの炎があった。
上に上にとひたすら昇っていく炎だが、ダンジョンとはいえ地下に出来ているため、天井が存在する。当然、高度の限界はその天井になるはず――だった。
「なっ!?」
火柱は天井などないかのように勢いを落とさずに進む。そのまま、天井に触れると激突して大きな花を咲かせた。
岩が赤熱し、今にも溶け落ちそうな光景が広がる。同時に、ラドンは一体何をしているかという疑問が脳裏をよぎる。
「ダンジョンから脱出しようとしている? いや、それなら、あの程度の火力じゃあ、次の階層にも辿り着けそうにないぞ……」
勇輝の魔眼には天井に衝突して、光を失っていく様子が見て取れた。それは打ち上げ花火が広がった後に、残光を残して散ろうとするのと同じで想像以上に早い。
火柱の尾が天井にまで辿り着くと、最初からラドンなど存在しなかったかのように消えてしまった。
「死んだ、のか?」
「でも、あんな状態なら、死ぬ前にこっちに攻撃して来てもおかしくないよ。それなのに、ただ燃えただけって……」
呆然と空を見上げる勇輝たち。不死鳥のように蘇るかと警戒していたが、いつまで経ってもラドンが復活する様子はない。むしろ、闘技場の何もなかった中心に水晶玉が置かれた台座が、姿を現して混乱を加速させる。
それが出現したということは、階層ボスを倒したと考えて間違いない。
戸惑いながらも騎士たちが一人、また一人と水晶へと近付いていく。
「そういえば、ダンジョンを攻略した場合って、水晶に触って入口に転移することくらいしか見たことないだけど……。そもそも、天然のダンジョンにも存在するのか?」
「特殊な条件が無い場合は、基本的に水晶が生まれるって聞いたことがあるよ。それでダンジョンを無効化する場合は、水晶を破壊すればいいみたい。やったことはないけど」
桜が水晶を見て呟く。
以前、水晶玉に触れて、それが偽物だったせいで痛い目を見たことがあった。当然、警戒して魔眼でチェックする勇輝だったが、不審な光は見受けられない。
「水晶玉を壊した場合、まず、中にいる侵入した生命体は外に強制転移されます。次にダンジョンとして変化した部分が全て元に戻り始めるのだと――少なくとも、そう言われています」
ソフィアがグラムを納め、辺りを見回す。近くにいた神殿騎士に向き直った。
「念の為、神殿騎士と黒騎士の人数の確認を。問題なければ、水晶玉を破壊して任務完了に」
「了解した。すぐに点呼を終わらせる。――神殿騎士。総員整列せよ!」
二人の指示に従って、次々と並び始める騎士たち。白と黒の鎧が整然と立ち並んでいく中、勇輝と桜はソフィアの背を見て声を漏らす。
騎士たちには檄を飛ばす一方で、一応、手伝いとして呼ばれた勇輝たちには、戦闘中でなければ敬語を極力使おうとする気遣いを見せていた。アルトの護衛をしながら、部下と勇輝たち、そして、敵にも意識を向けるという視野の広さに言葉が見つからなかった。
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