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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
魔王ならざる巨人と聖剣

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真の姿Ⅹ

 離れていても炎の熱が頬に伝わって来る。それを巻き起こった風が撫でて冷やしていくが、汗が一滴、顎に伝って地面に落ちた。


 ラドンの不死身としか思えない形態変化に、ここに来て逃げるべきかを考え始める。



「ドラゴンならば倒せると豪語したが……あれはもう生物の域を超えている。精霊の類ではないかっ!」



 ソフィアがグラムを握りしめ、悔し気にラドンを睨む。


 炎を切ることはできない。魔法でも一部の属性は意味をなさず通り抜ける。今のラドンを倒すならば水属性魔法くらいしか手段が見つからない。


 勇輝のガンドであっても、貫通するだけ。こんなことならば、水属性初級汎用魔法とガンドの合わせ技もできるように練習をもっとしておくべきだったと勇輝は後悔する。



「逃げ道を今から探すのは不可能。それならば、ここで迎え撃つのみ。幸い、水属性魔法が通用するのは見た目からして明らかです。ソフィア、ここは魔法が使える者を守りながら戦うしかありません」


「……仕方ありませんね。ここは何とかして回避に専念するとしましょう」



 勇輝は一瞬、桜を見て悩んでしまう。そろそろ残存魔力が怪しくなってきている。加えて、最大解放後は油断すると普段の身体強化でも副作用が出かねない。そんな中で、桜を守り切れるか不安になる。


 失敗した時のことを考えたら、自分が囮になる方が圧倒的にマシだ。


 そんなことを考えていると、桜が勇輝のコートの袖を掴む。



「勇輝さん。今、自分が囮になればいいって思ってない?」


「な、何でそんなことを……」


「視線。私を見た後に、あのドラゴンの背後を見たでしょ」



 まさか、それだけの動作から何を考えているか当てられるとは思ってもいなかった。心臓が大きく跳ね、別の意味で汗が噴き出そうになる。


 それは言い方を変えれば、桜を守る力がないと自分で宣言しているも同然だ。



「――いい? 私たちは一緒に戦ってるんだよ? 自分一人を犠牲にしようって考えないで」


「言いたいことはわかる。けど――」


「ダメ。今、勇輝さんを行かせたら、きっと私は後悔することになると思う」



 では、どうすればいいのか。そんな思いでラドンを再度、注視する。


 炎が燃え盛り、恐ろしい威圧感を感じさせる姿だが、見ている内に勇輝はその光景がまったく変わり映えの無い絵のように感じ始めた。


 火の粉が舞い、熱風と共に天空へと昇っていく。しかし、ラドン自身は一向に襲う気配を見せない。ブレスを吐きもしなければ、脚どころか首すらも動かさずに同じ姿勢でいる。


 魔眼でもその光に衰えはなく。むしろ、肉体を失ってからの方がより強く輝いてすら見える。



「何故だ。何故、さっきまでは好戦的だったラドンが襲ってこない?」



 神殿騎士が盾を構えてアルトの前に進み出ていたが、勇輝同様にラドンが動かないことに疑問を持ったらしい。


 この場にいるメンバーが同じ疑問を抱き始めていると、闘技場の端から避難した騎士たちが姿を次々に現し始めた。警戒しながら剣や盾を構え、近付いて来る。

 

 勇輝の耳に時折、鎧の立てる音が届く。しかし、明らかにラドンにもその音は聞こえているはずで、視界にも入っている。それでも、一切、動く気配を見せないラドンに、より疑念が生まれ始める。



「……まさか、油断して近寄って来たところで爆発、とかじゃないですよね?」



 キャロラインが頬を引き攣らせるが、目の前の光景に変化はない。ついに、炎の状態で死んでいるのかと思い始めたその時、ラドンが大きく翼を広げた。


 それを見て、観客席の騎士たちから水属性魔法である水球が勢いよく放たれる。当たった傍から白い蒸気となって魔法は霧散するが、ラドンの体は健在で、炎が弱まる気配を見せない。



「撤退するしかない、か。キャロライン、レベッカと共に逃げ道を探せ。闘技場の外に上の階層へと戻る道があるかもしれん」


「し、しかし、もし見つからなかったら――」


「その時は全滅か、奴を討伐するかの二択だ。だが、こちらが不利なのは変わらん。あそこからさらに変貌を遂げるかもしれないのだからな」



 ソフィアは屈辱だと言わんばかりに言い放ち、ラドンを睨む。それに応えるかのようにラドンは天を見上げて咆哮を轟かせると、翼をはためかせるのではなく、大きな火柱となって天へと舞い上がった。

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