真の姿Ⅶ
光魔法が効果がある。その事実を目の前にした神殿騎士たちが、剣先から光の球体を生成し、ラドンに向かって放ち始める。
皮膚で弾けると、黒く焦げた破片が宙に舞い、塵へと変わった。
「背中の棘もほぼ全て消し飛んだ! 今ならやれる!」
黒騎士たちも次々に火球を放ち、ラドンへと攻撃を加え始める。
防御機構まで失ったラドンにできることは、口からブレスを吐くくらいだろう。そして、それに当たるほどここに集った者は愚鈍ではない。
噴き出すブレスを見て、即座に飛び退る。ある者は観客席に、ある者は横に避けて、攻撃を加え続ける。
勇輝もまたソフィアと共に前に出て、殺到する魔法を掻い潜り、ラドンに己の得物で切り裂こうとしていた。
「――その様子だと、私と同じ考えらしいな」
「えぇ、あのドラゴンがこれで終わるようには思えない。まだ、何かを隠しているような気がする」
自分が魔王ならば、どうするか。
物理で攻められたら、触手の頭部が増えて襲ってきて面倒。魔法で攻められたら吸収して攻撃に転用する。それ以外に何か使い道が――
「攻撃に、転用していないな。雷にして外に逃がしただけだ」
果たして、それだけか。魔力を吸収して逃がす前に、その魔力を使って他の魔法を放てる方がよほど効率がいい。
ラドンにそれを扱うだけの知能がない。或いは、何か不都合があると考えるべきだろう。
勇輝の魔眼には、未だに赤く光を放つラドンの体が映っていた。
「その口を閉じてろ!」
ガンドを放つと、多少の威力の減衰があったものの、ラドンの顎が明らかに歪んだ。骨が砕けたように曲がっており、ブレスが口の端から漏れだしながら、頭を左右に揺らしている。
その時、勇輝は赤い光がより強くなったことに気付いた。
心刀を持ち直し、首へと切りつけようとしていた勇輝は、その現象が意味することに嫌な予感を覚える。もしも、吸収したエネルギーが逃せなくなったらどうなるか。その疑問に対する答えで真っ先に浮かんで来るのは、最悪の結末だ。
勇輝は身体強化に回す魔力を落とし、桜やアルトたちの方に向かって走り始めた。
「ソフィアさん! このままだとマズイ!」
「どうした? 今ならラドンを仕留めるチャンスだ!」
「魔力を逃せなくなったこいつの体が、いつ爆発するかわからない。ソフィアさんもさっき言ってただろ? 闘技場ごと吹き飛んでも驚かないって。だから、極力離れて、こいつに止めを刺さないと――」
「爆発に巻き込まれる、と。黒騎士、神殿騎士、共に今の話は聞いていたな!? 総員、距離を取れ!」
あくまで勇輝の推測に過ぎない。だが、魔眼が捉えるラドンの光は今もアルトの結界で皮膚を焼かれながらも増大している。空気を送り続けている風船のように、いつ破裂するか分かったものではない。
それはアルトも理解しているようで、ラドンの動きを注視しながら魔法を弱めていた。
「遠くからの一撃で、アレを射抜ければ問題はない。そうなると――威力の高いあなたの魔法か、魔法の制御が上手い彼女が最適そうだな」
もしや、と勇輝は考える。空を飛んでいたラドンが勇輝に警戒したのは、遠距離から一方的に魔法攻撃を当てられる気配を察知したからなのではないだろうか。
現在までのラドンの行動を見ていて、一番のラドンが困る攻撃は攻撃の届かない所からひたすら弱点を射抜かれること。それが唯一のラドンが倒せない天敵となる。
つまり、勇輝が距離を取るということは、ラドンにとっての死刑宣告に等しい。
「なっ!?」
直後、ラドンが砕けた顎を無理矢理開き、己の口が焦げるのも構わずにブレスを放とうとしていた。いや、正確にはブレスではない。少なくとも、勇輝の魔眼はそう認識していた。
最初に放たれたレーザーのような一撃が来る。それも、今までに溜め込んだ魔力まで用いた最大の一撃が。
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