真の姿Ⅳ
勝機がないわけではない。むしろ、こういった形で姿を変えて来たということは、そうせざるを得ない理由があると捉えることもできる。
また、アルトのおかげで重傷者も命を落とさずにいられるが、いつ狙われるか分かったものではない。つまり、攻めるならば今だ。
「何とか俺とソフィアでラドンを引き付けて、周りの援護射撃でダメージを蓄積。隙を見せたら、今度は俺たちが一撃喰らわせる。その繰り返しだ」
「今はそれが一番そうだ。後は、あの変化で能力も変わっていないことを祈ろう」
ラドンが首を戻し、周囲を睥睨する。その瞬間に、勇輝とソフィアは同時に駆け出していた。
真っ先に勇輝がガンドでラドンの口が無くなった腹へと一撃を放つ。普段のガンドならば余裕で風穴を開けるだけの魔力が籠められていた。
「なっ!?」
しかし、次の瞬間には、ラドンの体に溶けるようにガンドが入っていき、背中の棘から無数の雷が放電された。
思わず目を見開く勇輝だったが、さらに周囲の騎士たちから放たれた魔法も表皮で弾かれ、その度に雷が空中に走る。
「魔法無効化能力!?」
「触手がある時は物理に耐性があり、今の状態なら魔法に耐性があると考えた方が良いな。さらに進化して、どちらも効きにくいなんてことになる前に仕留めておきたい」
魔力で生み出された石礫も、ラドンの皮膚に触れた瞬間に霧散してしまう。唯一、魔法であっても攻撃が通ったのは、桜の岩の槍だけだった。
余裕の表情で足を踏み出そうとしていたラドンが、腹に二つの岩の槍が食い込んで動きを止める。
「なるほど。彼女のは地下にある岩や土を集めたり圧縮したもの。他の魔法よりは通るか。――気休め程度だが」
ソフィアの言う通り、岩の槍であっても、その強度を上げる為には魔力を使っている。魔力を吸収し、雷に変換して逃がすのならば、本来の威力よりも幾分か効果が薄くなるのは自明だ。
「……俺は体本体に切りつける。ソフィアさんは背中の棘を破壊してもらっても? アレを壊したら、魔力を逃がせなくなるかもしれない」
「えぇ、アレを折るのは、あなたの武器より私のグラムの方が向いている」
どんどん変化する戦況に合わせるように、勇輝は新たな作戦をソフィアに提示する。ソフィアもまた、その意図を汲んで即座に肯定。
視線をわずかに躱すと同時に左右へと別れる。そこにラドンのブレスが通り抜けて行った。
「こっちを狙って来るのかよ」
首が動くと共にブレスが勇輝を追って来る。その最中、勇輝は覚悟を決めて、身体強化に回す魔力を一気に増やした。
あまりに増やし過ぎると、魔力制御・最大解放が起動し、一定時間後に時間間隔が麻痺する副作用に襲われる。まだ、奥の手があったら困るので、それがギリギリ発動しないラインを見極めて、魔力量を調節。そして、その力で一気にラドンへと肉薄した。
「食らえっ!」
鞘から心刀を抜き放つと同時に、ラドンの後ろ脚へと切りつける。その手に返って来る感触に、勇輝は舌打ちした。
巨大な鬼の姿をした骨を切った時に比べて、随分と重い。「切れる」という確信があった鬼骸と違い、どこか違和感が拭い去れずにいた。
両手で持ち直して、人でいうアキレス腱部分に心刀を振るう。再度、手の平に叩きつけられる重い反動に勇輝は歯噛みした。
(何だ。随分と情けねぇ姿をさらしてるじゃんか。上を見ろ。黒騎士の隊長様は、しっかりとグラムを使いこなしてるぞ)
心刀に言われたが、見上げるまでもない。勇輝の耳にはしっかりと棘の破砕音が何度も聞こえていた。
(いつから出し惜しみをするほど強くなった? 一秒でも早く仕留めないと世界の危機だってわかってるだろ)
「うるさいな、そんなことわかってるんだ――――よっ!」
心刀に挑発されて、勇輝は魔力をさらに身体強化へと回す。心刀の言い方にイラついたからではない。あくまで、その言葉に一理あると思ったからだ。
魔眼でラドンの動きを注視しながら、全力で心刀を後ろ脚へと横薙ぎに振り抜いた。
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