真の姿Ⅲ
次々に緑色の液体を巻き散らして潰れていく、触手たち。それでも、何本かは運良く生き延び、蛇のように騎士たちに向かって這い始めた。
「くっ、勇輝。行けるか!?」
「――いや! 無理だ!」
もう一つの問題は、ラドンの腹に再び赤い光が宿ったのが見えたことだ。力を溜めてから放たれるかと思いきや、そう間を置かずに普通のドラゴンブレスが放たれた。火炎放射のように迫るそれを躱し、ものは試しにとガンドをその口の中にぶち込む。
大きな口の中、漆黒の闇の中にガンドが炎を裂いて飛び込んでいく。すると、唐突にラドンが腹の口を閉じた。餅がのどに詰まったかのように、体を一度大きく震わせた後、硬直する。
不穏な雰囲気を感じ取ったようで、ソフィアがラドンの背から跳び下りた。音もなく着地したソフィアの顔には、少しばかり笑みが浮かんでいたが、勇輝は真逆。魔眼が捉えた光に戸惑いを隠せずにいた。
ラドンの体内の中心から、体全体に青と赤が混在した光が広がる。そして、それぞれの光が背中の触手頭部や本体の巨大な頭部に到達したかと思うと、そこから勢いよく青い炎が噴き出した。
「な、なんだっ!?」
地上に太陽が現れたのかと思う程の眩い炎。それらは尽くが天へと昇っていくが、背中の触手が開いた口から出た炎の一部は、観客席を撫でて焦がしていく。
幸いにもラドンがその炎をコントロールしている様子はない。おかげで、騎士たちの被害は出ずに済んでいた。
「……さっきの作戦。やるのは良いんだけど、これよりも派手になりそうだな」
「あぁ、この闘技場ごと吹き飛ぶと言われても、私は驚かないぞ」
作戦続行か否か。噴き出ていた炎が収まり、黒煙が漏れ出すラドンを警戒する。
続行するにしても、今の攻撃でラドンがどんな行動に出るかわからない。この場にいる誰もがラドンの一挙手一投足を見逃さぬよう、腰を落としてすぐに動けるよう構えていた。
「おい、見ろ! 背中の触手が萎れていくぞ!」
観客席にいた神殿騎士の一人が剣でラドンの背中を指し示した。勇輝たちからは見えないが、脅威の一つであった多数の火球砲台を無力化することに成功したらしい。
「あの恐ろしい攻撃でなくても、効果があったのは運が良かった。もう一度、あの口の中に放り込んで奴が動かなくなったら、私があの首を切り落として見せる」
「必ずしも俺じゃなくて良さそうだけどな。狙える人がいたら、どんどんやればいい」
「それもそうだな。みんな、聞け! 奴の攻撃が自分に当たらないと思ったら、口の中に魔法を放り込むのもアリだぞ!」
ソフィアの呼びかけに神殿騎士も黒騎士も声を上げる。あれだけ派手にダメージが与えられたのだから、士気も上がろうというものだ。
だからこそ、勇輝も油断していた。ラドンの腹の口がゆっくりと開き、裏返ろうとしていることに。
口が、牙が外へ向けて広がり、背中側へ前脚も後ろ脚も追いやられていく。先程までは暗闇だった口の中から、今度は緑の脚が姿を現す。
「――そんな、バカなことが!?」
白い牙は背中で合わさり、草食恐竜の背中にいくつもある棘のようなものになってしまった。代わりに新たに出現した体は百頭竜の名とはかけ離れ、全身緑の毒々しい色をしたドラゴンだった。ボロボロだった翼も元通りになっており、完全に真新しい体力も何もかも万全な状態のように見えた。
「ここからの連戦。私はともかく、他の者が耐えられるか?」
ここに来て初めて、不安そうな声を漏らすソフィア。逆にラドンは天に向かって長い首を向けて、自らの新生を誇示するかのように吼える。
空気の振動が皮膚を痺れさせ、恐怖で足を地面に縫い付けようとしていた。
そんな中、ラドンの顎で大きな爆発が起き、その首を大きく仰け反らせた。
「弱気な発言なんてしてる場合じゃない。世界の命運をかけた前哨戦で、ビビってる暇なんてないだろ?」
勇輝はガンドを放ったまま、ソフィアに――いや、周囲の騎士たちに聞こえるように声を張り上げた。
「体がデカいだけの火を噴くしか能がないトカゲ一匹だ。ご自慢の頭も残りは一つ。だったらやるべきことなんて、最初から変わってない。違うか?」
勇輝の問いかけに一人、また一人と剣や盾を握る手に力を籠めていく。
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