真の姿Ⅰ
斬撃が放たれると同時に、肉片が宙を舞う。その中には、背中から生えていた触手状態の頭部が含まれていた。
「逃がすかっ!」
人間の腕よりも太く、身の丈を超える長さのそれは、もはや大蛇と言っても過言ではない。
空中で蠢く蛇と化し、ラドンの本体とは異なる思考を持つかのように地上にいた勇輝へと咢を開いて落下する。しかし、落下よりも先に勇輝のガンドがその触手を撃ち抜いた。
「これで三十。でも、全然減った気がしないな」
「あくまで、たくさんいるから、百頭竜と名付けただけで、本当に百あるかを数えた者はいないだろうな」
ソフィアが着地と同時に、グラムに着いた緑色の血を地面に振って落とす。
見上げた先には、怒りに燃える目が何対も並んでいた。その中でもひときわ大きい本体の目は、鏡のように姿が映るのではないかというほど見開かれている。
そんなラドンであったが、体中には石礫が刺さり、翼は破れてボロボロになっていた。ドラゴンとしての機動力は失われ、残るは火球を吐き出す無数の触手砲台のみ。
「ラドンの能力。本当にこれだけなのか? 魔王の配下にしては、物量さえ上回れば勝てそうな気が……」
「さてね。あくまで伝わっていること以外はわからない。ただ、切る度に嫌な予感が強くなっていくのは感じたな」
ソフィアの持つ剣は邪竜を切り殺したとされる聖剣。それを通して感じるものが気のせいとはとても思えない。しかし、勇輝の魔眼で見ても、火球を放つために赤い光が強く輝くくらいで、何か怪しい点があるかと言われると、見つけられないというのが正直なところだった。
「あと一押しだ。残存魔力が心許ないが、このまま押し切るぞ!」
神殿騎士と黒騎士たちが交代で石礫の魔法を放つ中、ラドンがソフィアから目を離して、ブレスを吐こうと口を開く。各騎士が散開して回避行動に移った。その矢先、地面から三本の岩の槍が突き出て、ラドンをその場に縫い留める。
放とうとしていたドラゴンブレスは中断され、わずかな火が噴き出ると共に悲鳴が漏れた。
「ナイスだ。桜! 動きが止まった今なら、俺も攻撃に――」
このまま行けば倒せる。倒せるのだが、あまりにも上手くいきすぎて勇輝は不安に駆られていた。それを何とか誤魔化そうとラドンに攻撃を仕掛けようとして、あることに気付く。
最初に放ったレーザーのような攻撃。それがあの後にまったく放たれていない。あれだけの攻撃を放つ魔力を持ちながら、それを活用しないのは何故か。
単にソフィアを主軸にした消耗戦を仕掛け、閃光魔法による目晦ましで撃つ暇が無かったと言えば、それまでだ。
「なん、だ? 皮膚の色が変わって――!?」
唐突に、ラドンの皮膚が変色をし始めた。少しずつ炭化したように黒くなり、やがてそれらもボロボロと崩れ落ちていく。そして、剥がれた皮膚のその先には、真新しい溶岩のような真っ赤な皮膚があった。
「おかしい。さっき切っていた時には、あんな状態ではなかったはずだ!」
「傷が増えて動けなくなったから、自分で体を作り変えている? いや、どちらかというと脱皮に近い、のか?」
ドラゴンをトカゲと同類と見なすのは違和感があるが、剥がれ落ちた場所の傷が塞がっていたり、切断されて欠損していた部位が小さく生え始めたりしているところはよく似ている。いや、脚まで再生するところを見るとトカゲというよりはイモリに近いかもしれない。
どちらにせよ、ラドンは全快とまではいかないものの機動力を取り戻した形になる。
「ひ、怯むな! 手負いのドラゴンの最後の悪あがきに違いない。ここは今まで通り、攻撃に耐えて確実にダメージを与えるんだ!」
神殿騎士の中でも比較的年配の男が叫ぶ。彼の言っていることは全く以て正しい。ただ一つ間違いがあったとすれば、その悪あがきから生まれる火力が、想像よりはるかに上であったことだろう。
背中の触手状の頭部から放たれた火球は大きさこそ異なるものの、腹から放たれるレーザーにも似た速さだった。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




