百頭竜Ⅶ
身体強化に魔力を回しながら、ガンドの装填を急ぐ。
勇輝は幾つもの火球の爆発を避けて、ラドンへと斬りつけるソフィアを見つけて、走りながら叫んだ。
「ソフィアさん! そいつの体を切ると、独立して襲い掛かって来る!」
「何!? それでは、どうやって倒せと!?」
ソフィアが混乱するのも無理はないだろう。せっかく自分の力の見せどころになると思ったところに、実は逆効果なのだと知らされたのだから。
そこで勇輝は、ある提案をしてみることにした。
「一度、態勢を立て直す。恐らく、俺や桜の魔法ならダメージを蓄積させることも――」
「いや、そんな悠長なことを言っている場合じゃない。ここに来た目的は、こいつの討伐ではなく、このダンジョンを一刻も早く攻略して、侵食を止めること。こんなところで手間取っているわけにはいかない。それに何より、神殿騎士たちの中から死人が出かねない!」
ソフィアの言っていることには一理ある。その考えは、ここに走り寄る前に勇輝も想定していたことだ。だから、すぐに代替案を示してみる。
「じゃあ、切り飛ばしたら、俺や他の人が魔法でその部位を消し飛ばす。それでラドンを丸裸にしてしまうっていうのは?」
一瞬だが、ソフィアの表情が真顔になった。明らかに勇輝の正気を疑っていることが分かる視線に、勇輝自身、苦笑いを浮かべそうになる。
しかし、ラドンを倒す。或いは無効化するには、それくらいしか手段が思いつかない。何しろ、ここに一瞬でラドンを消し去れる大火力を放てる存在はいない。ましてや、援軍など見込めるべくもない。
それ故に考えられる方法は二つ。少しずつ体を削っていくか、ゴーレムのように生命の源である核があることを祈って、それを探し出して破壊するかだ。
誰がどう考えても、前者が現実的だ。少なくとも、勇輝の魔眼で核らしき部位が見えていない以上、それしか方法はない。
「……なるほど。それならば、さらにやる気を出さないとな。だが、私が切り落とさずとも、そちらの魔法で直接消し飛ばすという手もあるのでは?」
「それで大きな肉片が分離しても面倒だ。それに一応、強い魔法を撃ってくれる味方には心当たりがあるから、それはそっちに任せようと思ってて」
それが桜であることはソフィアにも通じたようで、一瞬、勇輝の背中の向こう側へ視線を送った。
その時、ラドンの背中の触手から放たれた火球がソフィアへと殺到する。その数はあまりにも多く、数えるのも億劫になるほど。まるで炎の壁が押し寄せて来るように見えた。
「ふっ、グラムを握った私に、そんな技が効くと思うな!」
グラムを一閃すると、火球が届く前に破裂し、それに触発されて誘爆していく。しかし、その衝撃は不思議と訪れず、ラドンの口から悲壮な鳴き声が響いた。
「今のは、魔力の斬撃!?」
今までに何度か見たことがある技術だ。ある時は初級汎用魔法、またある時は蓮華帝国の貴族が使う技。緑色の光を纏っていたことから、純粋な魔力を放ったのではなく、風魔法として発動させたようだが、いずれにしても、驚きを隠せなかった。
「いや、今のは風魔法を無詠唱で放ったに過ぎない。咄嗟に使えると便利だ。こんな風にな!」
さらにソフィアがグラムを振るうと、土煙が切り裂かれ、その向こうにいるラドンの翼がそのまま裂ける。まだ飛ぶことは出来そうだが、それにはかなりの苦痛が伴うことが予想できる。
「さて、あの火球を掻い潜って、解体する覚悟と準備は?」
「そんなの、返事をするまでもないな!」
その言葉を待っていたとばかりに、ソフィアは我先にとラドンに向かって駆け始める。
「私の攻撃で肉片が飛んだら、何でもいいから魔法で消し飛ばせ! このデカブツの足止めは、こちらで引き受ける!」
闘技場内に響き渡ったソフィアの声に応えるように、神殿騎士や黒騎士たちから雄叫びが上がった。
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