百頭竜Ⅵ
触手上の頭部に光が宿る。それと同時にソフィアが尾の方に向かって加速した。
直後、彼女がいた場所の観客席が連続で爆発を起こす。先程の火の雨とは違い、矢のように火球が勢いよく射出されていた。
ソフィアの走った後を幾つもの爆発が追いかけていくが、なかなか追いつかない。そのまま尾の近くまで走り寄ったソフィアは、グラムで半ば程から切り飛ばしてしまう。
「……今、剣よりも長かったよな。やっぱり魔力を纏っていると攻撃範囲が伸びるのか?」
(まぁ、そんなもんだ。刀身で切れた場所に勢いよく魔力が放出されて、そのまま引きちぎれた――って方が近いかもな)
「なるほど。刀のお前が言うなら、そうなんだろうけど……。アレ、まだ何か隠してそうじゃないか?」
勇輝は次々とラドンへ攻撃を加えるソフィアの様子を見ながら、ラドンを魔眼で観察する。
ただの火力が高いドラゴンだけなら、他にもいるだろう。だが、頭部を百も持つドラゴンというからには、それに即した特殊な能力がありそうな気がしてならなかった。
「みなさん、目晦ましの閃光です! 気を付けてください!」
レベッカがソフィアに言われた通り、翼を大きく広げたラドンに対し、剣先を向ける。地上では不利と判断したのか、空に羽ばたいて体勢を立て直すつもりなのだろう。
しかし、その頭上と背中の上に光の球が幾つも浮かび上がった。ビクリとラドンは体を一瞬、硬直させたものの、それに構うことなく翼を動かし、体を浮かせる。
土煙が舞い上がり、押し寄せて来た風に乗って頬や体に当たって跳ねていく。そんな中、レベッカの放った閃光魔法が土煙越しに輝いた。
「よしっ!」
レベッカが歓喜の声と共に剣を払う。
様子は見えないが、地響きと共にくぐもったラドンの声が聞こえて来ていた。少なくとも、上空に逃がさずには済んだようだ。
「よし、ここで彼女の援護を――!?」
神殿騎士が前へと足を踏み出そうとした時、晴れかけた土煙の中から、大きな触手が現れた。顎を開き、神殿騎士を頭から呑み込もうと空中に身を躍らせていた。
「危ないっ!」
勇輝のガンドが首の辺りを抉り、レベッカの投げた大型のナイフが数本、口の中へと突き刺さる。
触手は悲鳴を上げる間もなく身を仰け反らせ、神殿騎士の前で地面に落下した。
「これ……さっきソフィアさんが切った尻尾?」
「……まさか!?」
勇輝はある考えに至り、ぞっとした。
バジリスクの首を勇輝が切った時、どうなったか。勇輝自身はあまり覚えていないが、確か首の切り口から頭部が再生したと聞いている。
横たわったラドンの尻尾が痙攣を始めたのを見て、勇輝の指は考えるよりも先にガンドを放っていた。
「な、何を!?」
「バジリスクと同じで、こいつも再生能力があるかもしれない。最悪、両断するとラドンが何体にも増えかねない!」
十メートルほどの触手となって襲い掛かって来たラドンの尾の大半が、穴だらけになっていた。幸いにも、バジリスクほどの再生能力はないのか、そこから傷が治癒する様子はない。
「再生、ではなく、切断されても一個の生命体として動くことができるのでは?」
「……トカゲのように自分で切って、あの背中の奴らを襲わせることも可能かもしれないな」
勇輝は神殿騎士と視線を合わせると、互いに頷いた。
「我々は攻撃と守備別れに、土魔法による攻撃でダメージを与える。ただし、まだその攻撃でどういう反応をするかわからない。その点で言えば、君の攻撃では敵を増やすことなく、ダメージを与えられた。万が一の時は、君だけが頼りになる可能性がある」
「わかりました。俺は一度、ソフィアさんに下がるよう伝えてきます。ただ、ラドンを押さえ込んでいるのも事実。最悪、俺も前線で戦うことになるかもしれません。その時は同郷の彼女をお願いします」
「わかった。我が誇りにかけて守り通そう」
これで十分だとばかりに、二人は走り出す。勇輝はソフィアの下へ、神殿騎士は桜とアルトを庇うキャロラインの下へと。
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