百頭竜Ⅳ
桜の杖の先に浮かんだのは、いつもと何ら変わりない石礫。ただし、その大きさは普段よりも数倍大きい。
詠唱が終わると同時に、石礫は真上に向かって打ち上げ花火のように上昇を始めた。
降り注ぐ火の雨へと加速した石礫だったが、最も早く地上へと辿り着かんと降下していた火球へ接近。直後、火球に触れる前に自らその形状を崩壊させた。
「くっ、貫通しなかったか。こうなったらグラムを――!?」
勇者が持つべきものとは異なるもう一つの聖剣。黒騎士隊隊長として彼女が持つ、聖剣グラム。それを呼び出そうとしたのだろう。手を前に翳した彼女だったが、その手にグラムが出現するよりも先に、天空が紅蓮に染まるのが先だった。
一つ、また一つと火球が次々に爆発し、勇輝たちの上にあったものが消えていく。
遠目で見るとわかりにくかったが、勇輝の魔眼は何が起きたのかを鮮明に捉えていた。
黄色の光を纏っていた大きな塊だった石礫は、自ら崩壊したのではない。それを起爆剤にして推進力とし、小さな破片を周囲へとまき散らした。本来の姿が質量と速さで攻撃する砲弾だとすれば、今回は少しでも多くの的に的中させるショットガンに近い。
ラドンの火球が初級汎用魔法の火球と同じように、少しの衝撃で爆発することが前提の博打染みた対処法であったが、見事にそれを桜は成功させた。
さらに爆発した火球が他の火球に当たり、誘爆していく。幸いにも熱風や石礫の破片は落ちてくることはなく、ラドンの攻撃を完全に防ぎきった形だ。
「桜、かなり魔力を使ったんじゃ?」
「……大丈夫。岩の槍に比べれば少ないし、次はもっと上手くやれると思うから。それに、私にはアレがあるでしょ?」
そう告げた桜は、服の胸元辺りを指差す。
魔法学園のダンジョンクリア報酬の宝石で作ったペンダント。体から漏れ出る魔力を吸収し、貯蔵できるので、不足した際にはそこからポーションを使わずとも回復可能だ。
桜の言わんとすることを察して、勇輝は頷いた。
「わかった。でも、無理はしないでくれ」
勇輝は心刀の鯉口を切り、ラドンを睨む。
光線と火の雨を受けて無傷な勇輝たちに苛立ったのだろう。自らの体で圧し潰さんとばかりに急降下を開始していた。その軌道上には、観客席に陣取っている神殿騎士がいる。
当然、今までのようにカウンターで攻撃するチャンスとばかりに、周囲はそこに向かって駆け始めており、標的となった神殿騎士は躱すタイミングを見計らっていた。
もう一度、ガンドで攻撃をすべきか、神殿騎士たちと共に切り込むか。一瞬の迷いが勇輝の中で生まれる。
「彼らに任せて、一度、動きを見定めるべきです。仮にも初見相手に無傷で持ちこたえた実力は本物。その魔眼で何か弱点が見つかれば、最終的にはそちらの方が有利になるでしょう」
ソフィアの声が背中からかかり、勇輝はその場でラドンを観察することにした。
その身に纏った光は赤一色。とても肉眼で見た姿からは想像できなかったが、推測するに神殿騎士たちが言った通り、炎を吐くことに特化しているようだ。急降下の際にも背中の幾つかの頭部からは、火球が吐き出され続けており、下手に近付くと逃げ場をいつの間にか塞がれてやられかねない。
ラドンの地上との距離がどんどんと近付く。その中で勇輝は不意に、ラドンの側面が他の頭部よりも赤い光が強いことに気が付く。しかし、そこには頭部も無ければ口もない。
「もしかして、弱点か?」
場所は長い首の付け根、前腕のやや後方。勇輝はそのドラゴンの全体的な形状からして、心臓があってもおかしくない位置だと考えた。
ガンドで撃ち抜けば一撃で倒せる。そんな気持ちが芽生えた直後、地上まであと数秒といったところで、赤い光が収束していた箇所の皮膚がガバリと開いた。
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