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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
魔王ならざる巨人と聖剣

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百頭竜Ⅲ

 直後、ラドンの腹の口から発射されたレーザーの如き光線は地面に着弾すると、そこに赤い球を形成した。数秒後、その球は閃光と共に弾け、その場に炎の柱が立ち上る。


 暴風が吹き荒れ、瓦礫があちこちの壁へと叩きつけられた。



「くっ、何という威力だ。範囲こそ中級だが、威力だけなら上級に届きかねないっ! 彼は無事か!?」



 ソフィアが桜とアルトをその身で庇いながら、表情を歪めていた。少なくとも、彼女の目には勇輝が避ける様子が見えなかったのだろう。必死に辺りを見回していた。



「こっちは大丈夫。なんとかね」


「……いつの間に!?」



 ソフィアの頭上。闘技場の観客席から顔を出した勇輝に、ソフィアが驚愕の声を上げる。


 それもそのはず。勇輝は回避も何もしていない。ただ、心刀の「鞘に戻る」という力を使っただけだ。心刀を鞘の中に転移で戻すだけでなく、鞘を握っている人物ごと心刀がある場所に転移することもできる。


 身体強化で投げ捨てた鞘の方が体を動かすよりも早く、またギリギリまで敵の攻撃を引き付けることができる。尤も、それを理解していても死を目の前にしたという事実は変わらず観客席から飛び降りた勇輝は、地面へと軽やかに着地したものの、その表情はまだ蒼褪めていた。



「ドラゴンブレスじゃなくて、アレはもう別の何かだろ……」



 空を見上げれば、再び飛行を再開しているラドン。ただ、依然として地上にいる人間を敵視しているのは変わらないらしく、闘技場上空から離れる様子がない。



「石畳が吹き飛び、場所によっては溶けていますね。この鎧でも一発耐えられるかどうか……」


「気を付けろ。今のはまだ優しい方だ。さっきなんか、アレを剣のように薙ぎ払ってあの通りだ!」



 神殿騎士が示す先には、崩れ落ちた観客席がある。果たして、攻撃を避け続けて、ラドンを倒し切れるのか。勇輝の中に一抹の不安が過ぎる。


 ガンドの発射というよりは、ガンドが放たれる前に気配に気付かれた。そんな様子が勇輝には感じられた。かなり敵意に敏感なのだとすれば、距離がある状態でガンドを放つのは得策ではない。



「敵が近付いて来るか、攻撃で動きを止めた瞬間がチャンスだろうな……」



 放出した分の魔力を装填し直しながら、呟いていると、にわかに周囲が騒がしくなる。



「まずい、今度は背中の奴らが火の雨を降らせて来るぞ!」



 咄嗟に魔眼を開くと、ラドンの背中にある一つ一つの頭部が赤い光を纏っていた。脳裏に先程のレーザーが思い起こされる。



「さっきのような威力が、あの数だけ!?」


「いや、そこまでではない。威力的には下級魔法クラスだ。だが、数がとにかく多い!」



 神殿騎士の言う通り、ラドンの背中から多数の火球が放たれた。一つの頭部につき、三個か四個ほどの火球を吐き出してる。それが空中にばら撒かれ、重力に従って落ちる花火のように尾を引いていた。


 問題なのはそれが燃え尽きることなく、どんどんと加速していること。文字通り火の雨が降り注いでいる。



「火球なら、少しの衝撃で誘爆します。でも、この量だと……」



 桜が杖を強く握りしめ、頭上を睨んでいた。そして、何かを思いついたのか、ソフィアの背後から抜け出して杖を掲げる。



「桜さん、何を!?」


「私の魔法でアレを全部――とまではいきませんが、空中で爆発させます! 上手くいかないかもしれないので、回避か防御の準備はしておいてください!」



 アルトの戸惑いの声を掻き消すようにして、桜が声を上げた。


 既に杖には魔力を回しているようで、勇輝の眼には赤と白が混じりピンクに見えている光が、杖を通すことで黄色へと変化しているのが見て取れた。



「『凝固し、弾けよ。汝ら、何者も寄せ付けぬ一条から出づる無数の閃光なり』」



 聞き慣れない詠唱に勇輝は耳を疑った。この土壇場にて、まさかの初級汎用魔法詠唱の改変(アレンジ)。思わず、形成されゆく魔法に眼を奪われてしまう。

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