進撃Ⅰ
一時間ほど林の中を彷徨った結果、場違いな遺跡を発見し、ユーキたちは中へと足を踏み入れた。そこには、期待していた水晶と上へ続くであろう階段が存在していた。
一先ずユーキはケヴィンに治療魔法をお願いしようと脇腹に手を添えるが、痛みが全くなくなっていることに気付く。慌てて、直接触ってみるがほとんど何も感じない。首を傾げながらも奥へと進むと、水晶を全員で取り囲む形になったが、誰もそれに触れようとはしなかった。
ユーキが水晶に魔眼を向けると、怪しい光を放っているのが確認できた。もはや、この水晶すらも偽物なのかと疑ってしまうのは、仕方のないことだろう。
「こいつも偽物だったりしてな……」
『あまり良い感じはしないですね』
「何かわかった?」
一度、ケヴィンから距離を取って、ユーキはウンディーネに問いかける。この中で一番魔力に敏感なのは、精霊であるウンディーネだ。当然、水晶の様子にも何か気付くだろうとユーキは考えていた。
『いえ、むしろユーキさんはアレが偽物だと?』
「まぁ……そんな風に感じただけだけど」
『逆に言えば、精霊である私にもわからない違いが、ユーキさんには感じられるということですね。つまり、それがユーキさんの魔眼の能力なのでは?』
痛いところを突かれた。勘で誤魔化せるほどウンディーネは間抜けではない。遅かれ早かれバレてはいただろうが、命の危機に少しばかり情報を出し過ぎていたのかもしれない。ここまで来れば、フェイが気付くのも時間の問題だと思い、白状することにした。
「俺も詳しい能力はわかっていないんだけどさ。世界が違う色に染まっちゃうんだよ」
『例えば?』
「そうだな……。俺の予想ではあるけれど、火の魔力なら赤、水の魔力なら青みたいな感じで、何らかの法則性によって色が変化するんだ」
『なるほど。では、どちらかというと精霊の眼に近いのかもしれませんね。私たちも多少の魔力の流れは眼で認識できるので』
姿は見えないが、何となくユーキは頬に人差し指を当てて、上を見ながら考え事をするウンディーネを幻視する。しばらく、悩んだ後、ウンディーネの出した結論は当初と同じく、水晶に触らず階段を使うことだった。
ユーキが水晶の傍まで戻ると、他の五人も同じ結論に達していたらしく、水晶を放置して奥の階段へと行く意見でまとまっていた。
「あの、この水晶はどうした方がいいのかな?」
「万が一、階段の先が行き止まりだった時のために取っておいた方がいいかもね。最悪、使わざるを得ないから」
「あぁ、そうだね。本当なら残して置きたくはないけれど、そういうことも考えておかないとまずい状況だ」
ユーキが告げるとフェイも頷いた。その瞬間、僅かに水晶が輝いたのを見逃さなかったのは、偶然だった。まだ魔眼を開いたままだったユーキは、その光に既視感を感じた。
「まさか……」
「どうしたんだ?」
「いや、ちょっと先に行って待っててくれ。もう少しだけ水晶を観察したい」
「……早くしろよ」
ユーキの背にフェイは声をかけると階段へとつながる扉へと歩いていく。その隙にユーキは小声で水晶へと話しかけた。
「お前、まさか使ってくれってことか?」
その言葉に水晶の光は急激に小さくなる。ユーキは、これを否定の意味だと確信した。
「じゃあ、自分を破壊してくれってことか?」
今度は素早く何度も点滅する。いかにも早くしろと言わんばかりに。
「ウンディーネはどう思う?」
『何を話しているかはわかりませんが、偽物だという確信があるなら破壊してもいいんじゃないでしょうか。水晶自体も望んでいるようなら、ですが』
水晶の点滅をウンディーネは知覚できないが、ユーキは間違いなくそれを視認した。ただ、フェイの言った通り、この先が行き止まりだった場合、今までの道のりが水の泡となるばかりか、無駄に時間を浪費することになる。
ユーキは迷った挙句、フェイへと呼びかけた。
「――――フェイ」
「何だ。観察はもう終わったのか?」
「みんなにも先に言っておく。ごめんな」
全員が反応する間もなく、ユーキはガンドで水晶を粉々にした。
フェイやマリーの息を飲む音よりも先に、ユーキの脳裏にいくつもの映像が飛びこんで来る。
たくさんの大人。薄暗い地下牢のような石造りの天井。そして、いくつもの黒い線が描かれた謎の文様と漢字。そして、飛び散る赤い液体。そして視界を埋め尽くす、いつか見た、あの赤黒い世界。
「――――い、おい! しっかりしろ! おい!」
「――――っ!?」
気付くとユーキの目の前にフェイがおり、何度も肩を掴んで前後に軽く揺さぶっていた。
「良かった、気が付いたか。もう少し遅かったら、顔をぶん殴っていたぞ」
「やめてくれよ。ちょっとボーっとしていただけじゃないか」
「ユーキさん。今、かなり長い時間、意識を失ってたけど、本当に大丈夫?」
サクラが心配そうにユーキの顔を覗き込む。その心配様を見ると相当な時間が経過していたようだ。周りを見回すと他のメンバーも一様に頷く。
「因みにどれくらい?」
「五分程度は何も反応がなかったな。正直、息が止まってるのかと錯覚したぞ」
マリーが口を指で示しながら答えた。その真剣な表情を見ると、どうやら揶揄っていないのは明白だ。
「まぁ、とりあえず、だ。水晶を破壊した理由を聞いておこうか」
「えーと……勘?」
遺跡の一室で鈍い音が響き渡った。
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