百頭竜Ⅱ
周囲は試練のダンジョン、魔法学園のダンジョンと同じような巨大な闘技場。ラドンのブレス攻撃がよほどの強力だったのか、或いはその巨体で破壊した後にブレスが当たったのか。観客席の一部は崩壊し、そのほとんどが黒く焦げていた。
神殿騎士たちは空を舞うラドンの攻撃で一掃されないように散り散りになって、次の攻撃を待ち構えている。
「攻撃が当たらないのでは?」
「あぁ、だから、こうして誰か一人に襲って来た所を狙って、カウンターを叩き込もうとしているところだ。さっきから何とか気持ち悪い触手みたいな頭を切り飛ばしているが、キリがない! このままじゃ、先に魔力が尽きるのが先だろう」
神殿騎士の一人――おそらく隊長を務めているのだろう――は歯噛みしながら、他の神殿騎士たちへと指示を飛ばしている。
勇輝はその指示を聞き流して、上空を旋回するラドンを見上げた。
「……つまり、アレが飛んでいなければ勝ち目はある、と?」
「そうだ。どんな状況でも戦えると自負はしているが、それにも限界はある。魔法での迎撃だと、魔力を無駄に消費しかねない。一日以上を掛けて戦うことができれば、討伐することはできなくはないが、疲労や手持ちのポーションの量を考えると非現実的だ」
「じゃあ、俺が少しやってみます」
勇輝は人差し指と親指で銃の形を作り、ラドンへと照準を合わせる。
魔力の塊を弾丸とし、相手の体に撃ち込むことで体調を崩すガンドという名の呪い。だが、勇輝のそれは岩どころか魔法耐性のあるミスリル原石の城壁すらも穿つ威力。空を飛ぶための翼など、それに比べれば紙同然だ。
撃ち抜いて落ちてくればそれでよし。一発二発で沈まずとも、何発も撃ち込めば必ず落ちる。仮にそうでなくても、今日に感じて空から降りて来る可能性も十分にあり得た。
「こっちに向かって来た瞬間に――」
無数の小さな頭部ではなく、外観上の生物としての頭部らしく部分にある目と視線が交錯した。その瞬間に、背筋を今までにない類の感覚が駆け上っていく。
冷たいようで熱い。そんな矛盾した感触を勇輝は、警鐘だと判断した。即座にガンドを何発も撃ち放つ。
拳銃から放たれた弾丸のように、高速で飛んでいく魔力塊だが、ラドンは唐突に空中で姿勢を変えて滞空する。体の向きを変えたかと思うと、裂けた口のような腹を大きく左右に広げて、鋭い牙を覗かせていた。
突如、勇輝の魔眼に紅の閃光が映る。それが何かを理解するよりも先に、勇輝は叫んでいた。
「攻撃が来る! 俺から離れろ!」
身体強化で移動しても、その移動先に誰かがいたら巻き込まれてしまう。
そう結論付けた勇輝は、即座に心刀を抜き放ち、あらぬ方向に投げた。そして、ラドンの動きを見逃さないように限界まで目を見開く。鞘を握る左手が一瞬で湿り気を帯びる。
黒騎士たちが各々横に飛び退き、ソフィアがアルトを抱える中、桜だけが勇輝の後ろで止まっていた。
「勇輝さ――」
「彼なら大丈夫だ。あなたもこっちに!」
そんな桜の腰を、右手でアルトを抱えたソフィアが空いている左手で引寄せて飛び退いた。
背後から消えた桜の気配に安心する間もなく、勇輝の魔眼はより一層強い輝きが視界を埋め尽くすのを感じとる。一瞬だけ魔眼を解除し、肉眼でラドンを見た勇輝は、その巨大な腹の口の奥に、赤い光が煌めいたように見えた。
「今だ!」
(あいよ!)
投げ捨てた心刀に呼びかけると、脳内に金属質な声が響く。意志持つ呪いの刀の声だが、そこには勇輝同様、焦りの色があった。
普段ならば、ほったらかしにしていたことの一つや二つを愚痴にしているはず。しかし、ラドンの攻撃が危険だということが伝わっていたのか、食い気味に返事をして、心刀の持つ能力を発動させた。
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