緊急攻略Ⅶ
減速していく勇輝の遥か後方を桜やアルト、ソフィアたちが落下していく。
それを追いかけようとして、彼女の杖が光り輝いているのを勇輝は見た。
「『逆しまに、時を跨ぎし、我が杖よ。汝のあるべき姿に戻れ!』」
手に持っていた杖が一瞬で、アルトの持っている杖と同じくらいまで巨大化する。それを桜は跨ぐと杖の先端が輝く翼を展開した。
ファンメル王国においては免許制となっている飛行魔法だが、桜は最速の飛行魔法の使い手直々に指導を受けた結果、見事に乗りこなしている。
尤も、まだ慣れたというには日が浅い。その証拠に速度を落としつつも、左右に杖がブレて、今にも制御を失おうとしていた。
「マズイ、地面がっ!」
キャロラインの悲鳴染みた声が響き渡る。すると、即座にアルトを抱えたソフィアが叫び返した。
「体と鎧に魔力を全力で回せ! ここで使い切っても構わん!」
その指示の直後、下方から大砲でも放たれたかのような音が幾つも響き渡った。
果たして、黒騎士たちは無事なのか。そんな心配をしつつ、勇輝は魔力の足場を跳びながら、桜は滑空しながら下りていく。
「うわぁ、すごい跡……」
立ち込める土煙をヒカリゴケの明かりが照らす。桜が近付くと、巻き起こった風で土煙が吹き飛ばされ、その惨状が露になった。黒騎士たちが着地した場所の石畳が漏れなく罅割れており、中には数十センチ陥没している所もある。
よほどの衝撃があったものと推測できるが、それに反して多くの黒騎士たちが何事も無かったかのように動いていた。
「何で、無事なんだよ……」
「私たちの鎧には魔力を籠めることで物理・魔法の衝撃や効果を軽減する術式が刻まれているからですね」
着地しながら驚愕する勇輝の背後から、レベッカが近付いて来る。まだ、土煙が待っているのが気になるようで、顔の前で手を何度も振って払おうとしていた。
「まぁ、魔力をかなり消費するのが厄介なので、基本的に黒騎士になるには、魔力容量が大きいことが大前提なんですよね」
ポーションを取り出して、魔力の補充を始めていたらしい彼女は肩を竦めた。魔法も支援で使う彼女からすると、魔力をさらに消費する鎧の仕様には思うところがあるらしい。
空になった瓶をしまい、レベッカは辺りを見回した。立ち込めていた土煙も落ち着き始め、周囲の様子が見え始める。
「どこかの、通路――みたいですね」
先程いた階層の広さに比べれば圧倒的に狭いが、それでも人が十人は並んで歩ける程度には広かった。ただ、その光景に勇輝は既視感を抱いていた。
「桜、ここも……」
「うん。魔法学園のダンジョンの最下層にあった闘技場内の地下通路そっくり」
ここまで来ると偶然とは思えない。何かしらの理由があるはずだが、それを推測するにはあまりにも判断材料が欠け過ぎていた。
そんな中、ソフィアがアルトを地面に降ろして、近寄って来る。その表情は険しく、落ちて来た穴がある天井ではなく、床の罅割れを見ていた。
「私たちが落ちた後以外にも、大きな跡があります。恐らく、神殿騎士たちのものではないかと」
「見張りがいなかったのは、もしかして――」
「えぇ、落とし穴が塞がった後に、もう一度、それが起動した可能性が高いですね」
ソフィアが爪先で石畳を叩くと、そこには誰もいなかった場所にもかかわらず、罅と穴が存在していた。
「まったく、随分と嫌らしい罠ですが、死体が転がっていないところを見るに、彼らも全員無事と考えた方が――」
そこまで話すと同時に、通路の一方向から重く、低い音が響いて来た。通路の天井から小さな砂が落ちてきて、その衝撃がかなり大きいことを物語っている。
みな一様に音が聞こえてきた方向を警戒して見つめる。すると、かすかにだが、似たような音が何度か聞こえて来たように勇輝には思えた。
「もしかして、神殿騎士さんたちが何かと戦ってる?」
「試練のダンジョンを真似していたのなら、最終階層の可能性がある。そしたら、そこに出て来る魔物は――」
勇輝の言わんとしていることを理解したのか。ソフィアは勇輝が言い切るよりも先に、剣を音が響いてきた方向へと掲げた。
「音のする方へと進む。全員、いつでも戦闘に移行できる心の準備をしておけ」
隊列を組み直すと、今までと違って、駆け足で移動を開始する。この先に待っているのが何者なのかは不明だが、勇輝は強大な敵が待ち構えているような気がしてならなかった。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




