侵食するダンジョンⅣ
ひとまず、試練のダンジョンを侵食されては、今後の魔王討伐に支障が出る。最悪、次代以降の勇者が苦労するか、生まれなくなる可能性もあるからには対処は必須だろう。
いつダンジョンが侵食完了するかはわからない。対して聖剣を抜くまでには猶予が一日ある。それまでにそのダンジョンを攻略してしまうのも一つの手だ。
「天然のダンジョンの出現する原因は、地脈を流れる魔力。それが流れ続ける以上、同じことが起こるでしょう」
「はい。ですが、それは最低でも年単位での話。目の前のダンジョンを潰した後で、このダンジョンの保護をする為の方法を枢機卿たちに考えていただければいいでしょう。」
「では、まずはこのことを枢機卿たちに――」
アルトたちの判断は早かった。侵食してくるダンジョンの攻略を即座に行うべしということで、帰還して枢機卿に連絡をする為に戻ると告げる。
「因みに、ここを出るとスフィンクスは復活してるとかは?」
「あれは当分、復元しない。それだけのリソースが無いだろうからな。気兼ねなく、奥の水晶に触れて地上に戻ると良い」
勇輝の問いに巨人はぶっきらぼうに答える。
その内容から、勇輝は巨人がここにいてダンジョンの仕組みを理解はしているが、全て管理をしているようには見えなかった。侵食するダンジョンの話を伝えて来たのも、「自分が住んでいるダンジョン」に被害が出るから、という部分も大きいように感じた。
「じゃあ、ここを抜け出しても大丈夫だし、ちび桜の術は解除する?」
「うん。ただ、あそこにいたまま解除すると、せっかく作った紙がもったいないから、こっちに移動させるね。それまでには、あっちの二人の話し合いも終わりそうだから」
浮いて移動しているので、歩くよりも遥かに早く到着するだろう。
勇輝はその間に、試練の最後の場である闘技場をもう一度見渡す。いったい、ここで何と戦うことになるのか。サイズ的に今の巨人が収まるには狭すぎる。それを考えるとオークやそれよりも大きなゴーレムと言ったところか。
ただ、今まで出て来た敵のほとんどがアンデット系のことを考えると、それに近い存在だと推測できる。
(或いは、スケルトンを相手にしながらレイスも倒さなければいけないとか……か?)
闘技場と言えば、剣闘士とかが思い浮かぶ。もしかすると、完全武装スケルトン兵とかの可能性もあるかもしれない。
そう考えると、少しだけ戦って見たくなる勇輝だったが、ふと視線を感じて振り返ると、巨人がじっと見下ろしていることに気付く。
「俺のことで何か? それともサイクロプスのことですか?」
「そのどちらも、だな。その様子からするに、あの巨人たちから何かを受け取っていないか?」
巨人の言葉に勇輝は一瞬、心臓が跳ねた。
初めて会ったサイクロプスには、いきなり雷のような力を送り込まれた覚えがある。その気配を感じ取っているとするならば、勇輝の魔眼とはまた違った意味で、超感覚の持ち主と言えるだろう。
「ふむ、そうであるならば、さっさとその扱いに慣れておくんだな。万が一の時には、魔王に対する有効打になることもあるやもしれん。尤も、人の身で扱えるようになるとは思えんが」
「それは話しても問題は?」
「少なくとも、それで何か問題が起こるとは思わん。むしろ、人間側にとっては何かしらの対抗手段が増え、このダンジョンの安寧も守られる。俺にとっても悪い話ではないからな」
そこまで聞いて、勇輝は落ち込みたくなった。勇者ではない勇輝だが、目の前の巨人曰く、魔王への対抗手段の一つとして認識されているらしい。魔王の右腕的存在のバジリスクを屠った時は、運良く生き延びることができたが、魔王本人ともなれば、その運もどこまで続くことか。
何となく、近い将来に魔王との対峙を予感する勇輝。そんなことを考えている間に、話がまとまったのか、アルトたちが声を掛けて来た。
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