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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
魔王ならざる巨人と聖剣

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侵食するダンジョンⅡ

 顎髭を人差し指で弄った後、巨人は頷いた。



「いかにも。二代目以降の勇者とならば、出会ったことがある」



 出会ったことがある。


 その言葉に勇輝は耳を疑った。魔王が復活するサイクルは百年以上と聞いている。マックスが何代目かは覚えていないが、最低でも数百年は生き続けているということになる。



「……勇輝さん、勇輝さん。もしかして、この巨人さんも、神様みたいな存在なんじゃないかな?」


「あり得る――というか、その可能性しかないとさえ思える。でも、本人が名乗っていないから、今は静観しておこう」



 自ら名乗っていないのに、こちらから問いかけるのも気が引ける。


 その考えに桜も賛同したようで、小さく首を縦に振った。



「確か、先代の勇者は百年と数十年ほど前だったか。時の流れは早いものだ。もう、魔王が復活する頃になったか」


「あなたは魔王のこともご存知なんですか?」



 アルトが声を震わせて尋ねる。あまりの緊張のせいか、杖を握る手が白くなるほど力が入っている。


 ただでさえ、巨体の大声を全身で浴びている中で、自身の目的である勇者と魔王について――しかも、星神の託宣ではなく、目の前の生きた存在から――知ることができるのだから、仕方のないことだろう。



「知っている。が、おいそれと話すわけにはいかん内容だ。お前たちに話してやれることは少ないだろう」


「それでも構いません。ぜひ、教えてください!」



 アルトの叫び声に近い訴えを聞き、巨人は小さく唸った。


 見下ろしたその表情からは、アルトを値踏みしているような気配を感じる。



「その杖に、その魔力の感じ……本当に聖女なのだろうが、一つ疑問が残る。今代の勇者はどこだ? まさか、勇者が見つかっていないわけではないだろう」


「はい。今代の勇者候補は、この上に存在する街におりますが、まだ聖剣を抜いておりません。明後日に聖剣を抜く予定なのですが、それまでに一度、ダンジョンや街を調査し、安全確認や魔王の情報を集めようと思っていたのです」


「……魔王に関する情報の少なさ故に、だな?」



 巨人にも思い当たるところがあったのか、鼻を鳴らす。



「まぁ、もどかしいのはわかる。だが、それこそが世界を守る一手でもあった。あまり詮索すると自らの命を散らすことになる。気に入らぬが、気まぐれに天に姿を現すという星神の言葉を待つのだな」


「そ、それはどういう……」


「言葉通りの意味だ。下手に魔王のことを知ろうとすれば、より酷い惨劇を引き起こすことになりかねん。その時に与えられた情報と目の前にある光景を以て、解決に当たるのが救世の道と知れ」



 巨人は言うべきことは言ったとばかりに息をつくと、腕を組んで勇輝たちを睥睨する。


 その中で、ソフィアと桜には一瞬だけであったが、勇輝を見た瞬間に動きが固まってしまった。



(何だろう。その夜中に電気をつけたらゴキブリがいた、的な反応。ちょっと傷付くな)



 何しろ、明らかに勇輝だけには、一瞬とはいえ敵意を見せた。それが何を意味するのか、勇輝にはわからなかったが、何も言わずにいるのが一番だと気付かないふりをする。


 ただ、巨人の方は我慢が出来なかったようで、恐る恐ると言った様子で、勇輝に問いかけて来る。



「お前。今までに神と名乗る者に出会ったことはあるか?」


「……一つ目の巨人になら」



 あえて名前を伝えずに特徴だけを伝えてみる。すると、巨人の目がこれでもかというくらい開かれた。それがあまり良い反応ではないと勇輝は感じる。何せ、巨人の拳は音を立てて握り込まれており、白目の部分にくっきりと血管が見えるほど血走っていたからだ。



「……まぁ、そういう縁もあるだろう。お前には何の罪もないだろうからな」



 意外にも巨人は深呼吸で落ち着きを取り戻すと、アルトへ向き直った。

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