動く勇者像Ⅴ
勇輝の予想は当たったらしく、アルトたちの会話は動いた像についてに変わっていく。
「どこの像が動いたとか覚えてますか?」
「こ、この先の広場にある勇者像だよ。他にもあったから全部覚えてるわけじゃないけど……」
どうやら動く像は一つだけではないらしい。しかし、厳しい勉学に励む神官たちではなく、普段から遊び回っている子どもたちが街の異変に気付いていたというのは盲点だった。
「これは俺たちがいなくても、その内、発見されてただろうな」
「うん。今はこの子たちだけだけど、像が動くってことを確かめる大人が出てきてもおかしくはないもんね」
そこから噂が広まり、神殿にいる枢機卿に届くまで、そう時間は掛からないだろう。
「じゃあ、覚えてる限りで案内してもらっていいですか? 私たちがちゃんと守りますから、ね!」
「せ、聖女様が言うなら……なぁ?」
「う、うん……、大丈夫だと思う」
少年たちもアルトたちならば大丈夫だと思ったようで、顔を見合わせて頷く。
何より聖女にお願いごとをされて頼られるというのは、彼らにとって一生にあるかないかの出来事だろう。
「話は纏まりましたね。では、勇敢な二人の名前を聞かせてくれますか?」
「オレはランドン。こいつは――」
「ニックって名前だよ」
「ではランドン君、ニック君。改めて、よろしくお願いしますね」
アルトの呼びかけに、少年たちの返事が路地裏に木霊した。
俺と桜は、それを見てアルトたちに合流する。少年たちに勇輝たちも自己紹介して、目的の像へと向かうことになった。
「具体的に何が動いたとかわかりますか?」
「オレが見たのは指と腕なんだ。微妙に向きが変わったんだよ」
ランドンは自分の体で像の動きを再現する。右手は剣を持って肩に背負い、左手はどこかを指で示す。
しかし、その左手は肘で折り曲がり、自身の腰へと指が向いていた。
「方角が変わるならまだしも、腰の辺りですか……」
方角ならば、そちらの方向に何かがあるという予測ができる。
だが、腰となると意味がわからない。
アルトはもう一人の少年――ニック――にも、話を振る。
「僕は剣を向ける方向が変わっていたのを見たんだ。動いた瞬間は見ていないけど、絶対にポーズが変わっていたよ」
はっきりと告げるニック。その表情は真剣そのもので、嘘をついているようには思えない。
その後も、何度か質問をしていくと、彼らの言う広場に辿り着いた。像は確かに勇者を象ったもので、剣を肩に担いでいる。その左腕は東を指差していた。ランドンの言う言葉が正しければ、その指は腰を刺しているはずだ。
「もしかして、変化した後、元に戻ってるのか?」
もしそうならば、彼らが信じてもらえない原因の一つには、これが入るだろう。誰かを呼んで戻って来た時に、姿勢が変化していなかった、という状況が目に浮かぶ。
「今までに発見して、誰かを呼んだことは?」
「あったけど、その前に元に戻っちゃってた」
やはり、と勇輝は像を魔眼で観察する。
像が放つ光はそこまで多くない。今まで見てきた像とほとんど変わらないと言っても良い。そこから勇輝が考え付いたことは二つ。
一つは何者かが魔法を掛けて動かしている場合。それが愉快犯なのかはわからないが、勇者の像に魔法を掛けるというのは、聞く人が聞けば怒りに駆られる行為だろう。場合によっては本当に神殿の人に捕まりかねない行為だ。
そして、もう一つはなにかの条件を満たすことで魔法が発動する仕掛けがある場合。こちらに関しては、いろいろと疑問点が残る。どうやって魔力を供給するかというのは、特に技術面において最大の課題となるだろう。
「俺みたいに黄金結界が周囲にあるわけでもないし、何か時間で動くような仕掛けが魔法にもあるのか?」
地球では特定の時間になると動き出すモニュメントや時計がある公園や建物もあった。それを考えれば、動力こそ違うものの魔法で仕掛けを考えること自体は、発想としてあってもおかしくない。
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