動く勇者像Ⅲ
像の見た目ではわからないので、ある意味で勇輝が呼ばれたのは正解だったかもしれない。
魔眼が捉える光で他の物とは違う存在を見つけ、それぞれの国の知識で解決を図る。その方法が最も早いというならば、どんどん次の物を調べに行った方が早い。
「もし、俺の魔眼を前提にして調査するなら、もっと早いペースで見ることはできるけど……。俺は魔法関連には疎いから、桜と一緒に見るのも大切だよな。意見を言い合うことで何かわかるかもしれないし」
「うーん。それなら二手に分かれてみる? 式神を召喚すれば、もっと手分けして見れるから」
桜は人の形をした紙を取り出して、ひらひらと揺する。だが、俺としてはそれを求めているわけではない。
「桜さん。勇輝さんが一緒に回りたいって言ってるのは、何も桜さんの知見だけを頼りにしているのではないと思いますよ。だって、お二人は――ねぇ?」
アルトの意味深な目配せを受け、ソフィアがなるほどと頷く。桜が変な誤解する前に、俺は自分の意見を述べておく。
「アルト。悪いけど、今回の無いように私情は挟んでないんだ。確かに桜と一緒に回るのは旅行をしているみたいで楽しいけど、魔王関連の内容に関しては遊びじゃマズイだろ?」
式神を使えば、たくさんの場所を見て回ることができるのは事実だ。しかし、その分だけ集中力は分散する。それで何かを見落としていたら、元も子もない。
しかし、アルトは口元を抑えながら、俺に追撃を仕掛けて来る。
「……因みに本音は?」
「……まぁ、一緒にいたいのは否定しない。ほら、ここは十分だろうから、次の所への案内を頼むよ」
少し顔が熱くなるのを感じて、誤魔化すように案内を促す。明らかにアルトは勇輝を面白がって笑っているが、それ以上は何も言及して来ない。恐らく、昨日の夜に勇輝と桜が今の関係になるまでの話を聞いていたのが原因だろう。
手で顔を扇いで、何とか平静さを勇輝は取り戻そうとする。だが、そう簡単には元に戻ってくれそうにはなかった。
諦めて手を下ろして歩き出すと、ほんのりと温かな手が触れる。
「別にどこかに行っちゃうわけじゃないんだから、そんなこと考えてなくてもいいのに――今は、これで我慢、ね!」
桜が微笑んで、手を握って来た。火山のように体から熱が噴き出て来る感覚に襲われる。しかし、体は正直なもので手を振りほどくどころか、握り返していた。
「その、変なところで嫉妬深かったり、寂しがり屋だったりするかもしれないけど、迷惑だったら言ってほしい」
「何言ってるの。むしろ、愛されてるんだなって嬉しくなるのが普通じゃない?」
そう告げた桜の横顔を見ると、彼女の顔も真っ赤に染まっていた。
調査に集中しなければいけないのに、どうにも心が穏やかではいられない。
「お二人とも。仲が良いのは素晴らしいですが、次に行かないといけません。――部屋を別々にされたいなら、今夜までに用意しておきますけども」
「は、はい! すぐに行きます!」
ソフィアの追加で放たれた言葉に、一気に意識が前方へと向けられる。
勇輝は桜の手を引いて、急いで進み始めた。慌てたせいで、足先を石畳の隙間にひっかけて転びそうになりながら、何とかアルトたちへ追いつく。
「もう、ソフィアったら。もう少し二人を放っておいても良かったのに」
「あなたも、人をからかうのはほどほどに、ですよ。聖女が自らの役目を忘れてどうするのですか」
「いえ、この二人を見ていると、なんだかこっちまで心が温かくなってきませんか?」
「言いたいことはわかりますが、二人が使い物にならなくなるので、そこまでにしてください。流石の私も怒りますよ」
ソフィアはそれ以上アルトに発言させてなるものかと、その背を片手で押して道を急がせた。
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