共歩きⅥ
重力が働く方向が背中にあると感じて、初めて自分が地面へと寝転んでいることに気付く。どうやら、視界外からの枝の鞭を食らったらしく、数メートルも吹き飛ばされて地面を転がったらしい。自分には結界があるからと油断していたが、どうやら結界は物理的な攻撃からは完全に守ってくれないようだ。
それもそうだろう。本来は霊的に召喚した者から自分の身を守るため、或いはその者を出れなくするために描く結界だ。魔力的に世界を区切ることはできても物理干渉を退けることは不可能。ましてや、相手が召喚魔法と何ら関係ない相手ならば、当然の結果であった。
「――――ごほっ!」
ほんの一瞬だが息が止まっていた。朝食を吐き出しそうな感覚と共に、肺から勢いよく息が吐き出される。傍目から見ているとそこまで威力があるようには見えなかったが、どうやら想像以上にあの枝は固く、重く、そして早く動くらしい。
ユーキは胸元のポケットからポーションを取り出すと吐き気を押さえて喉の奥に押し込んだ。ほとんど使ったことはなかったが、苦い味が喉にこびりつき、吐き気を増幅させる。何とか飲み干すと、体を反転させて地面へ手を付いた。
『少しなら私の魔力で回復を促進できます。でも、あまり無理はしないように』
ウンディーネが呼びかけると、ユーキは体がスッと冷たくなるのを感じた。体内の血液を始めとする体液に干渉して、肉体の損傷を押さえたり、回復させたりする治癒魔法の一種だ。
心の中で感謝をしながら急いで立ち上がると、脇腹に激痛が走り、体が動くことを拒否する。ポーションが効くまでには時間がかかる上、ウンディーネの援護も即効性はない。それでも動けるだけマシというべきだろう。
それでもユーキは腹を押さえて顔を上げると、魔法の一斉射撃で怯み、僅かに後退しているトレントの姿が目に入った。枝の攻撃範囲からも外れており、安全な範囲に入る。
しかし、真正面にまだ居座っているサクラたちは別である。焦って三人で同時に攻撃したことで、次の詠唱までに大きな隙ができてしまっていた。魔法の詠唱を終える前に攻撃範囲内に入ってしまえば、確実に無防備になっているところに攻撃が加えられるだろう。
仮にユーキのガンドとフェイの高速の一撃があったとしても、トレント二体を同時に抑えるには、火力が足りなかった。
不幸中の幸いとでもいうべきか、ユーキを吹き飛ばしたであろうトレントは枝が数本燃え上がり、消火することに躍起になっている。その動作が邪魔をして、もう一体が進めずにいた。
ユーキは残った魔力を振り絞り、後先考えずにガンドを全力で放つ。そのターゲットは未だ無傷でいるトレントだ。このまま進めば確実に一人はユーキと同じ目に合う。下手をすれば首が折れる可能性すらあった。
せめて痛手を追わせておかなければ、と放ったガンドは高速でトレントへと向かうが、炎上しているトレントが捩れたことで、もう一体が押し出され、ガンドは虚しく空へと消えていった。
「ちっくしょ……」
立っているのもやっとな状態のユーキの視界の先で、二体のトレントが再び前進を開始する。
その先にいるサクラ、マリー、アイリスは走った疲れに魔法を放った疲労が重なり、詠唱が遅れていた。フェイがメイスを投げ捨てて、サクラたちの前へと出ようとするが、トレントの方が一歩、いや二歩早い。
風を裂く甲高い音が響く。もはや手遅れと、ユーキが目を見開いて見守っていると、空中へと何かが舞った。
誰もが何が起こったかわからず、呆然とそれを目で追う。それは分かたれた上半身と下半身だった。
ゆっくりと時間が流れる。そのままスローモーションのように落ちてきた二つの塊は、あっけないほどに軽い音を立てて、地面へと叩きつけられた。
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