動く勇者像Ⅰ
店に訪れていた老婆の孫とその友人たちが遊んでいる時に、勇者の像が動くところを見た。
その情報が何か大切な手掛かりになるのではないかと、彼女の家を訪ねたのだが、肝心の子供が遊びに行っていて留守だった。
「仕方ありません。また、夜になったら訪問するという形になりますが、よろしいですか?」
「いいわよー。聖女様が来てくれたって知ったら、孫だけじゃなく、家族みんな喜ぶと思うからね」
「では、また伺いますね」
アルトが老婆に感謝しながら家から出て来る。
手掛かりと決まったわけではないが、真っ暗闇を進むよりはマシだ。それを感じているのか、彼女の表情は出発した時よりも少しばかり晴れやかだった。
「では、陽が沈むまでは調査を続けることにしましょう。幸い、先程までいた広場からは近いので、そこから再開ということで」
「なぁ、星神様とやらは、今の状態に関して何か教えてくれたり、意見をしてくれたりはないのか?」
魔王の出現を知らせることができるなら、それ以外のことであってもアルトにお告げという形で情報を渡すことはできるはずだ。
まだ、その時ではないからなのか。それとも、知られると不都合なことがあるからか。それは星神自身しかわからないことだろうが、アルトがそれをどう捉えているかは知っておきたいところだ。
「星神様の声は、いつも聞えるわけではないんです。日没または夜明けの前後数時間に聞くことができる時があるかどうかといった具合で……」
「じゃあ、星神様が教えてくれたのは――」
「勇者を探せ、ということだけです」
よくその一言だけで探そうと思えたものだ、と勇輝は呆れそうになるのを堪えた。
彼女たちからすれば、百年以上も聞こえることがないようにと祈っていた「最悪の言葉」をお告げとして聞いてしまったのだ。意を決して立ち上がったことを馬鹿にするようなことがあってはならない。
「逆に、星神様が魔王以外でお告げをくださることってあったんですか?」
「それは何度かありました。私が聖女として神の声を聞く力があると知らされたのが最初です。そこからはダンジョンの氾濫が近付いていたり、街道から外れて彷徨っている冒険者がいたりすることを教えてくださることも何度か」
魔王の内容はざっくりとしているのに、アルトの口から語られた内容はどちらもピンポイントで情報を与えてくれている。どちらも場所を把握していないとわからないだろうし、その状況になるまでの様子をある程度理解していないと判断できない事柄だ。
ますます、重要なはずの魔王の情報がざっくりしていることに疑念を抱かざるを得ない。
「因みに勇者を必要としていながら、魔王と戦わなかったこととかは……?」
「今までに何度か聖女が勇者を見つけ出し、魔王討伐に赴いたことはありますが、それ以外で勇者が選ばれた記録は残っていません。仮にドラゴンが襲来するというお告げがあったとしても、その時には恐らくソフィアのような当時の各隊長が部隊を率いて事に当たったはずです」
アルトの言葉を受けてソフィアも頷いた。
「星神様のお言葉を除けば、サケルラクリマの意思決定は十二名の枢機卿の判断に委ねられます。しかし、枢機卿たちの口から勇者がいればという言葉が漏れることはあろうとも、彼らの指示で勇者探索に出た記録は一切ないはずです」
あくまで勇者を探すのは星神の指示があってから。その条件を信じるならば、今回のお告げは本当に魔王が復活することを意味していることになる。
「その、星神様にこちらから声を届かせる――会話することはできるのかな?」
桜の疑問に俺も頷く。もしできるのならば、魔王の復活時期や場所を知ることができる。
何だったら、魔王の居場所に関しては、蓮華帝国の四大貴族が占いで特定している。それを伝えれば嘘か否かくらいは答えてくれるだろう。
そこで勇輝はハッとした。魔王の居場所を知ったのは日ノ本国にいる時で、その情報をアルトたちは知る由もない。
では、その情報を伝えたらいったいどんな反応をするだろうか。
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