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調査開始Ⅶ

 数分もすると、アルトが自信を持って頼んだ食べ物が運ばれて来た。


 確かに説明の通り、ハンバーガーのような食べ物だった。見方によってはサンドウィッチにも見えるかもしれない。


 真っ二つになったパンの間には、野菜と肉がたっぷりと挟まれており、見るだけで腹の虫が騒ぎ出す。



「今日は牛バラ肉をレタスとチーズで挟んで、果汁ソースをかけた。刻んだ青唐辛子が入っているが、辛さは控えめで、子供でも食べられる程度のアクセントのはずだ。パンの内側にはオリーブオイルも塗ってある」



 仏頂面で説明を終えた店主が、小さく顔を立てに振り、カウンターへと歩いて行ってしまった。



「あはは、スイマセン。悪い人じゃないんですけど、口数が少ないというか、必要なことしか話さないというか」


「職人気質って感じですね。私は、むしろ好感が持てますけど」



 アルトの苦笑いに桜は軽く手を振って気にしていないことを示していた。


 勇輝はその様子を見て、同意して頷く。



「仕事ができそうな人って感じだよな。食べる前から美味そうって思わせてくれる見た目も最高だし、早速食べてみてもいいか?」


「もちろんです。どんどん食べてください」



 その言葉に勇輝と桜は手を合わせて、挨拶をする。パンの間から立ち上る肉の香りに涎が溢れ出て、止まらない。


 勇輝は我慢できないとばかりにかぶりつくと、肉汁が一気に口の中に広がった。味付けされた塩気を感じていると、肉汁を押し流すようにさっぱりとした甘みが口内に広がる。その中に、唐辛子のわずかな刺激が顔を出して、舌を刺激する。



「この種の唐辛子は最近、輸入され始めた食べ物らしいのですが、老若男女幅広く人気らしいですね。個人的にはもう少し辛みが強い方が好みなのですが」


「ソフィア。あなたは隊長なんだから刺激物は控えるようにした方が良いんじゃない?」


「仕方ないでしょう。美味しいと思う心は誰に求めることはできないんです」



 彼女たちも料理に舌鼓を打ちながら笑顔で会話を続ける。


 そんな中、先に店の中にいた老女の話し声が耳に届く。



「そういえば、聞いたかい? うちの孫があんたんとこの孫と見たって言ってた像の話」


「あぁ、聞いたとも。広場遊んでいたら、勇者の像が動いたっていうのだろう? 昔から像は街の至る所に置いてあるけど、それが動いたなんて聞いたことがない。大方、門限を破って遅くまで遊んでいたのを誤魔化そうとしたんだろうよ」


「その通りじゃな。うちの嫁に同じこと言われて怒られておったわ」



 像が動く。


 その言葉に勇輝はもちろん、アルトたちも目を丸くした。



「特定の条件下で発動する魔法もあります。でも、何故、像を動かす必要が……?」



 桜は手に持ったままパンを皿の上に置いて、眉を顰める。


 像を動かす方法はある。しかし、その目的が見えてこない。



「まずは、その像の場所を聞いてみるのが良いかもしれないですね。私、少し聞いてきますね」



 アルトは素早く椅子から立つと、背後の方にいた客の方へと歩いて行く。


 その背中を見送りながら勇輝は、パンを咀嚼する。その中で考えていることは桜と同じだ。像が動く理由とは何か。


 別に像でなくてもいいのだろう。まず動くはずが無い物が動くということは、第一に見てもらいたいものがあるという意思を感じる。では、何を見てもらいたいのか。


 動いたのが勇者の像ならば、対になるのは当然のことながら魔王だろう。短絡的かもしれないが、魔王のいる方向を示しているという可能性はあり得そうだ。



「いえ、星神様のお声が聞ける聖女がいるのに、わざわざそんな仕掛けを用意する必要があるとは思えません。そもそも、魔王の場所が分かる魔法があるのならば、もっとわかりやすくした方が良いはずです」


「あまり露骨に残すと不都合なこともあったんじゃないんですか? それこそ星神様の威光を落としかねないから、とか」


「そ、それは一理あるかもしれませんね」



 星神の声を聞くことが出来なくなった。聖女が現れなかった。或いは何かしらの事故が重なって、魔王を感知できなくなったなど理由はいくらでも考えられる。


 今の勇輝たちのように情報が少なすぎることに不安を覚えた何者かが、未来の為に何か仕掛けを残した。論理の飛躍が激しいが、あったら助かることは間違いない。流れ的に、昼食を食べ終えた後は、その子供に像の場所を聞きに行くことになりそうだ。


 勇輝はアルトが老人たちと話す姿を見ながら、もう一口、パンに齧りついた。

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