調査開始Ⅴ
勇者や聖女の像や壁画、その他諸々の建造物も含めて調査をしていくのだが、あまりにも多すぎて時間が足りないのは明らかだった。
そこに加えて、勇輝の魔眼には様々な光が映し出されていたのだが、街を守る結界の要付近にあるせいか、それ自身の発する光かどうかもわからない時があった。
「比較しようにも、比較できないな」
『あぁ。あれは面倒だな。前に魔剣の作り方を聞いたことがあっただろ。アレと同じで、魔力を浴び続けて、自身が魔力を帯びる物体になっちまってるな』
「それ、何かの事故に繋がらないよな……。勝手に像が動き出して、ゴーレムみたいに襲って来るとかさ」
『俺が勝手に動き出さないのと同じだ。そういう術式が刻まれていたら話は別だが、自然にそんなことが起こるのは、かなり少ない確率だろうな』
その辺りは物としての視点を語れる心刀を信用しても良いだろう。
ただ、この街だと母数が多いので、数体程度は動いてもおかしくはないくらいの認識でいたほうが良いかもしれない。
「かなり歩き回りましたけど、ここまでで何かお気付きになられた点はありますか?」
アルトの問いに勇輝も桜も唸ることしかできなかった。
単純に勇輝は魔眼から違和感を感じ取ることができず、桜は魔法として何かが発動していないので考察しようがないという状態だ。
「この街の結界が強いだろうって漠然とした感想しか出せないです。ごめんなさい」
「良いんですよ。偉い神官が調べても分かったことは少ないので。気楽に、国外の人の視点で見てください」
「アルト様。まるで観光客になってくださいと言わんばかりの言動はお控えを――」
わざとらしくソフィアが注意を促すと、アルトは頬を膨らませる。おもむろに黒い鎧の一部を掴んだかと思うと、それを軽く揺すって抗議の声を上げた。
「そういう扱いはストレスが溜まるって言ってるでしょ。せっかく来てもらったんだから、色々、紹介したいし」
「――世界の命運が懸かっていることを忘れてはないですか?」
「それはそれ。これはこれ。集中しすぎると見逃しちゃうこともあるから、程々で良いんだって」
そう言い放ったアルトにソフィアは、片手を頭に添えて首を横に振るだけだった。
「そうだ。そろそろお昼ですし、お食事にしませんか? この国の料理もたくさん味わって欲しいんです」
「腹が減っては戦はできぬ、なんて言うからな。神殿での食事も美味しかったけど、こういう街の店の食事は、また別だろうな」
「そうだね。それに内容が分からなくても、二人に聞けば、どんな食べ物かわかるもんね」
「もしかしなくても、俺がファンメルで分からずに辛い料理を食べたことを言ってる?」
「もちろん。勇輝さんって、変なところでおっちょこちょいなんだもの」
言い返したいところだったが、事実なのでぐうの音も出ない。
むしろ、内心その通りだと、勇輝自身頷いていた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと料理の説明もしますから。でも、たくさん良いお店があるからどうしよう……」
「あそこはどうですか? うねり坂の老舗の――」
ソフィアの提案にアルトの表情がパッと明るくなった。
店の場所が出ただけで伝わるということは、それだけ美味しいということが二人の中で共通の認識としてあるのだろう。
勇輝たちとしては、地元の人がオススメするのだから、それが一番だろうと二人の結論が出るのを待っていた。
「神殿の食事は意外と味が濃かったな。宗教の人は薄味系だって勝手に思い込んでたけど、そうでもないみたいだ」
「サケルラクリマの神官さんは、武闘派な人も多いって聞くから、それが原因かな? それか、この国自体がそういう食事文化なのかも」
「じゃあ、それも含めて話を聞いてみようか」
ちょうど、アルトたちの中で行く店が決まったらしく、勇輝たちを呼ぶ声が聞こえた。
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