調査開始Ⅳ
像の周りを一周してみるが、特におかしなところはなかった。
もしや、剣の部分が石で覆われているだけで、中に本物の聖剣があるのではないかと疑ってみるが、判別する方法はない。ただ、今までに地面の奥底の様子を魔眼で捉えたこともあるので、中にあれば見つけることは出来る可能性はゼロじゃない。
「この勇者の像って、モデルになった方がいらっしゃるんですか?」
「どうでしょうね。もしそうならば、勇者の名前くらい彫られていてもおかしくはないのですが、今までにそういった物は見たことがありませんね」
アルトも勇輝と同じように像の後ろ側に回り込むが、そこに何かが書かれていないことは確認済みだ。
恐らくは、想像上の勇者を象ったものなのだろう。モデルがいれば、そこから何かのヒントが得られると思ったが、簡単には見つからない。勇輝でなくても、サケルラクリマの優秀な神官の誰かが見つけているはずだ。
「こういった像は、結構あるのか?」
「えぇ、あればあるだけ御利益があると考えている人も多いので、何年かに一度、コンテストを開いて優秀だった像を飾るようになっているそうです。風雨にさらされて罅割れたりするものもありますから、それと入れ替わる形で置くこともあります」
「その像は流石に残ってないですよね?」
「そうですね。余程の理由がない限りは廃棄されていると思います」
ゲームでは像の一部が動くギミックがあったり、持っている物が入れ替えられたりすることもある。しかし、そんなことをすれば間違いなく危険人物として認識されるだろう。あくまでここにあるのは芸術品。或いは一種の宗教における御神体に近い物と言える。
「星神様の御神体とかはないのか……」
「常に夜空で我々を見守ってくださっていますから、像である必要がありませんからね。天を見上げれば、いつだって祈ることができますから」
「なるほど。そりゃそうだ。神様が見える所にいるのに、そっぽ向いていたら、それこそ不敬だもんな」
肩を竦めて像が置いてある広場全体に目を向ける。住宅が所狭しと並ぶ中で、円形に区切られた広場はこれといった特徴もない。あるとすれば、綺麗に彫られた円形の溝くらいだ。
「もしかして、この広場の円も何か結界の役割とかがあるのか。像なんかよりもこっちの方が気になるな。えっと、何でしたっけ? 黄金結界とか何とか」
ここだけではない。昨日から坂道を歩いている時に道自体が光っていることもあって、進むことを躊躇したくらいだ。ファンメル王国の王都・オアシスでも道や水路が光を放っていることがあったが、カルディアはそれよりも幾分か多いように見受けられる。
「そうですね。二重の円をとある比でかいたものを黄金結界と呼び、それを儀式の際に用いたり、街の守りに使ったりすることは多いですね。おかげで、魔物の侵入は最小限で済んでいます」
ソフィアも広場を見渡して頷く。
子供たちがどこからか走って来て、また別の道に消えていく。姿は見えないが、その子たちの元気な笑い声だけがどこかから響いて来た。
「この平和を守るためにも、何とかしないといけませんね」
「えぇ、そうですね。――アルト様、そろそろ次に行くのはどうでしょうか?」
ソフィアの言葉にアルトが振り返って、さらに進むべき場所を指差す。ちょうど、子供たちが走って行った道だ。
ちょうど、大きな雲が太陽を遮り、冷たい風が吹き抜けていく。
「この先には聖女の像があります。因みに、勇者と聖女が同時にいる像もあって、個人的なお気に入りなんです。今日はそこも通る予定なので、楽しみにしていてくださいね」
「……アルトがモデルの像とかがあったり、出来る予定はあるのか?」
「なっ!? そ、そんなものあるわけないじゃないですか! そんな恥ずかしいものが出来たら、神殿に籠って、二度と出ません!」
どうもアルトは自己顕示欲が少ないタイプらしい。ありすぎるのもどうかと思うが、人前に出る役割である以上は、それくらいの覚悟があっても良いのではないかと思う勇輝であった。
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