調査開始Ⅲ
翌朝、アルトの宣言通り、街の中を勇輝たちは歩いていた。
昨日、勇輝たちの部屋に集まっていた四人だが、当然ながら街の人たちの視線はアルトと勇輝に向けられる。
「なぁ、もしかして、俺が勇者と勘違いされてないか?」
「多分ですけど、それはないと思います。勇者が確定した際には、ちゃんとお触れを枢機卿たちが出してくださる手筈になっているので」
「それならいいんだけど……」
勇輝は納得した様子を見せるものの肩越しに振り返る。すると、店の中や建物の影から伺っていた人たちが急に顔を逸らした。
「もしかすると、アルト様に何かあったら対応できるように、と身構えている可能性もありますね。日ノ本国の方が来ることはほとんどありませんので」
「それ、俺が不審者扱いされてるってことじゃ……」
「そうとも言います。まぁ、私が一緒にいるので、そんなことはないと思いますけどね」
悪びれた様子もなく、ソフィアが笑う。彼女なりの冗談なのだろうが、勇輝としては笑えない。
あまり見かけない日ノ本国の人間だから怪しまれているのか。勇輝個人が怪しまれているのかで、話は大分変わってくる。後者の場合、後のカルディアに立ち寄った日ノ本国の人に迷惑をかけかねない。少なくとも、日ノ本国の人間は悪い奴だったと思われないような言動をしたいものだ。
「ファンメル王国は出会わなかっただけで、私たちと同じ出身の人はいたみたいだからね。そういう意味では勇輝さんの言う通り、気を付けないと……」
不安を吐露すると、桜も表情を引き締めて頷いてくれた。そんな中で最初に到着したのは噴水だった。
円形の縁の真ん中から水が噴き出しているのだが、塔のような噴き出し口の根元付近に二匹の魚の像が見える。
「勇輝さん、見て。あの魚、面白くない? 尾の部分が紐で結ばれてるよ」
「あれはパイシーズの噴水ですね。紐は親子の魚が急な水流で逸れてしまわない為の物と言われています。これはこの街ができてからかなり初めの頃に出来た噴水ですね」
初期に作られたということは、それだけ街に関わりが深いということになる。その分だけ魔王に関する情報が得られる可能性が高いはずだが、残念なことにそこから情報を読み取ることはできない。
ただ、魔眼を開くと二匹の魚がやけに他よりも強く、青い光を放っているように見えた。
「あの魚が俺の魔眼には違和感を感じるんだけど……」
「あぁ、あれですか。時折、あの魚の位置が変わるらしいんです。噴水の根元部分の水中に輪があるのが見えますか? あれに沿って位置を変えるって言われているんですけど、それが動く瞬間を見た人はいないらしいです」
「日時計みたいに、何かを表す仕掛けなのかもしれないな。法則性とかが分かればいいんだけど」
勇輝はアルトたちへと視線を向けるが、彼女たちもその理由は知らないようで顔を見合わせるばかりだ。
「もしも気になるところがあったら、もう一度戻ってくるのもいいかもしれませんね。とりあえず、他の場所も見て比較して見るのはどうですか?」
「そうだな。比較対象がある方が確かに判断しやすい。桜は何かある?」
桜は噴水を一周して来たが、何も見つからなかったらしく首を横に振る。二匹の魚の像のことを頭の片隅に仕舞い込み、次の場所へと向かう。
歩いて数分と経たぬうちに現れたのは、勇者の像だった。等身大よりもやや小さめに作ってあるが、切先が地面に触れている剣の柄に両手を置いて遠くの空を見つめる姿は、なかなか様になっていた。やはり、勇者を作るということでかなり腕のいい職人が創ったのだろう。美術館に置かれていても違和感のない作品に感じた。
「……何も見えない、か」
しかし、魔眼には何も映りはしない。石像から放たれている光の色は灰色や黄色で、その輝きもそれほど強くはなかった。
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