調査開始Ⅰ
アルトたちが教えてくれた今回の目的は、主に三つ。
一つ目、試練のダンジョンに潜り、その中にある構造に異変がないかを調べること。
二つ目、聖剣の保管場所周りに異変がないかを調べること。
三つ目、この街の中に他の勇者・魔王関連の施設や物品がないかを調査すること。
どうにもサケルラクリマ側は、星神の神託だけでは不安らしい。何とかして魔王に対抗する手段を見つけることができないか。或いは見逃していないかと躍起になっているようだ。
「かつてのバジリスクが残した爪痕が、目の前に残っているとなれば恐怖にも駆られるでしょう。かくいう私も御伽噺で聞いた時には、あの砂漠には足を踏み入れようとは思いませんでしたから」
アルトはため息をついて窓の外を見る。ここから、その光景を見ることはできないが、きっと彼女には記憶を辿って思い起こすことができるのだろう。同時に自分が育った街を救いたいという思いがあることが窺える。
「それで、順番的にはどうするんだ?」
「聖剣は無闇に近付くことはできませんので、まずは街の紹介もかねて探索を。その次に試練のダンジョンに潜ろうかと思っています」
「聖剣は一番最後――それこそ、抜く瞬間とかも見る感じですか?」
「その通りです。あなた以外にもこの国にいる神官で解析が得意なものが大勢参加する予定です。情報を一つでも得られればいいのですが」
アルトは視線を勇輝たちに戻す。灰色の瞳には若干、諦めの色が浮かんでいた。
「そういう神官さんたちがいて、私たちが呼ばれたということは、その……ダンジョンと街での解析の結果は――」
「ご想像の通りです。彼らも手を尽くしたのでしょうが、ほとんどが手掛かりなし。おまけに試練のダンジョンの途中には謎解きがありまして、それを解けずに先へ進むことができないのです」
彼女が聞いたところによると、大きな石像の魔物が行く手を塞いでいて問題を出して来るのだとか。それを解ける者が誰もおらず、調査もできない。さらには枢機卿たちもそれを問題視しており、勇者が解けなかったらどうするのだと頭を抱えているらしい。
「謎解きは問題によるだろうから、一先ずはその魔物が出るところまでが調査対象ってことですか?」
「そのつもりで大丈夫です。もし、答えられて進めるようなら、その先もお願いしたいのですが」
ダンジョンは全部で五階層。そこまで広くない、むしろ一本道で各通路に一つだけ試練の間が用意されているのだという。
「普段は第一階層でスケルトン狩り。第二階層は――確か、トラップ部屋だったかと。リブラ枢機卿が言うには、勇者が入る時にもスケルトンが出たという記録が残っているらしいです」
勇者が入っても中が変化することはないのかもしれない。そうだとしても万全を期すためには、やはり調査は必要なのだろう。
スケルトン相手だと勇輝の刀では有効打にはなりにくい。浄化系の魔法か、打撃として砕く攻撃が向いている。
「もしかして、聖剣というからには、聖剣の斬撃自体がアンデット系に対して有効とかあります?」
「どうでしょう。私としてはそちらの方が嬉しいのですが、聖剣の情報もあまり残っていないので――あ、でも、記録によると聖剣は『しゃべることができる』らしいです」
その瞬間、勇輝と桜の視線が心刀へと向く。
話すことができる剣があまりにも身近にいすぎて、変な考えが過ぎってしまう。
『安心しろ。俺が聖剣なんてことは星が砕けてもありゃしない。どちらかといえば、俺は妖刀――魔剣の類だからな』
思念で心刀が自身が聖剣の関係者であることを否定する。
逆に肯定されていた場合、それはそれで面倒なので勇輝は何も言わずにアルトの説明に耳を傾けることにした。
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