聖教国サケルラクリマⅦ
高価そうな絨毯にベッドが二つ。窓際には机が置かれており、勇輝からすれば現代のホテルと同じような感覚だった。
天井には小さいながらも魔法石で部屋を照らすタイプのシャンデリアが吊るされており、宗教国家の総本山として見れば豪華なのだろう。
(この国の宗教観が分かっていないから、質素な生活を心がけるとかそういう感じを前面に押し出す感じじゃないのか? それとも、お偉いさんたちがいるから、他よりも豪華になっているだけか?)
勇輝は少しばかり疑問を抱きつつも、小型の肩掛けバッグを椅子へと掛ける。桜の物も受け取って同じようにすると、扉の外で話していたアルトとソフィアが中へ入って来た。
「み、未婚の男女が部屋を同じくするのは、問題があると思いますので、別の部屋を用意します。なので、今は暫くこの部屋で待機を――」
「あの……ソフィアさん。実は私たち婚約をしている関係でして……」
「婚、約……?」
桜が説明をすると、ソフィアは目を丸くする。その横でアルトも大きな杖を腕で抱え、両手で口を押さえて顔を真っ赤にしていた。
「お、お二人とも、そういう関係だったんですか? いや、そう言えば、バジリスクを倒す時も桜さんが襲われたタイミングで勇輝さんが覚醒していましたし――あれが、愛の力というモノなんですか!?」
「落ち着いてくれ。そんなことを言われても、必死なだけだった俺にはわからんから」
興奮しながら迫って来るアルトを何とかして宥めようとするが、彼女は一人でヒートアップしてしまって落ち着く気配がない。助けを求めようとソフィアに視線を送るが、彼女は彼女でフリーズしたままだった。
「あぁ、ソフィアは放っておいてください。そういう恋愛ごとに耐性がないだけなので。それよりも、後でお二人の馴れ初めから告白まで事細かに教えてくれませんか? そういう話聞くの大好きなんです!」
「……俺はパスでいいか? このメンバーに囲まれている中で、自分の口から話す勇気は少しないから、女子会でも開いてやってくれるとありがたい」
その言葉を受けて、アルトの首が恐ろしい速度で桜の方に向けられる。あまりにも早すぎて、実は一回転していると言われても驚かないだろう。
桜は熱烈な視線を受けて、しどろもどろになっていたが、優しすぎる心根のせいで頷いてしまった。
両手を天に突き上げるアルトを前に苦笑するしかできない俺だったが、本題を忘れる前に話を進めておこうと手を軽く叩いた。
「はい。じゃあ、それは後でやるとして、大切な依頼について情報を共有しておこう。ほら、黒騎士隊長殿。そろそろ、こっちの世界に戻ってきてください」
「はっ、スマナイ! 私としたことが」
ソフィアが両手で頬を叩いて顔を何度か振る。すると、呆けた顔から一転、キリッという効果音が聞こえてきそうなほどに真面目な表情になった。
すぐに彼女は勇輝と桜の間を通りすぎると、椅子にかかったバッグを机の上に丁寧に置き直し、椅子をアルトの近くへと移動させる。
「申し訳ありませんが、お二人はベッドの方に座っていただいてもよろしいですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。それより、ソフィアさんの分の椅子は――」
桜が部屋の中を見回すが、すぐにソフィアがそれを制止する。自分は護衛の為にいるので座るわけにはいかないのだと。
儀礼や会談の場ならいざ知らず。ここはアルトたちのホームグラウンド。ここで護衛が必要になる事態などあるはずがない。しかし、それを告げてもソフィアは首を横に振るだけだった。
「お言葉に甘えてしまえば、それに慣れてしまうかもしれません。大切な任務を前にした今、少しでも気を引き締めておきたいのです」
「それなら、仕方ないか」
勇輝たちは説得を諦め、アルトたちから今回の依頼の詳細を聞くことにした。
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