聖教国サケルラクリマⅥ
階段を下り終え、屋内に入って来た所でアルトたちは振り返った。
「久しぶりですね。相変わらず元気そうで何より。ファンメルの国王様からは何度か、あなたたちの話を聞いていたから無事なのは知っていましたけど、こうして会うと心の底から安心できます」
「アルトも元気みたいだな。勇者関連の話は、まだ苦労しそうだけど、一つ区切りが付けられそうな感じで安心したよ」
聖剣の解放という大仕事だ。枢機卿たちはもちろん、聖女であるアルトも気が気でないだろう。
何せ、勇者候補であるマックスがそれさえも拒否しまえば、勇者の選定を一からやり直しになりかねない。最悪の場合でも、聖剣が抜けていれば、それを持って次の勇者を探しに行ける。逆に抜けていなければ、この街を襲われた時点で詰みになる可能性が高い。
「その点はマックスさんに感謝、ですね。尤も、彼は聖剣を抜くとか世界を救うよりも、サケルラクリマに行くことができるという点で頷いてくれた部分が大きいのですが」
「そ、それは、逆に大物ですね……。枢機卿たちの前でも勇者になることを拒否した感じですか?」
安堵のため息をつくアルトに、桜の問いかける。すると、ジト目で歩いて来た祭壇がある方を見上げる。
「えぇ、その時のレオ枢機卿の怒り具合と言ったら、先程の比ではありませんでした。気持ちはわからなくないのですが……」
「仕方がありません。最初に私たちが勇者をお願いした時も、同じように必死になってましたから。一度、冷静になる時間が必要です」
横に付き従っていたソフィアも小さく息をつく。傍から見て、自分たちがどういう状態だったかを認識すると冷静になるというが、それを時間差でくらったのだろう。
一方は世界を救いたい。もう一方は勇者任せにするならやりたくない。
どちらも言っていることは正しい。ただ、多くの人々が魔王という危険に晒された時、前者の意見が優先されるのは目に見えている。
勇輝はマックスがそんな事態になった時は、きっと勇者として立ち上がりそうな予感がしていた。何故なら、彼の所属するパーティーからすれば二束三文にしかならないゴブリン討伐を自ら引き受けた挙句、素性の知れない勇輝を王都まで連れて来てくれるような優しい性根の持ち主――パーティー内に約一名、矢を気軽に人に向けてはなって来るエルフがいるが――だからだ。
「とりあえず、お二人にはマックスさんたちの部屋の隣を使ってもらいます。あ、でも男女だから部屋は分けた方が良かったですよね」
失念していた、とばかりにアルトは口を両手で覆った。
「あぁ、別に大丈夫ですよ。今は桜と同じ部屋で寝ているので」
「――え?」
その瞬間、空気が凍り付いた。
アルトとソフィアの勇輝を見る目が、少しだけ険しくなったように見える。そこで、勇輝は自分が言葉足らずなことに気付いた。
「勇輝さん。アルトさんたちは私たちの関係を知らないから……」
「そ、そうだよな。俺の言い方がまずかったな。あの、勘違いしないで欲しいんだけど、一応、俺と桜は――」
婚約関係にあると言葉を続けようとしたのだが、それよりも早くアルトが言葉を紡ぐのが早かった。
「ソフィア! 連行!」
「はい、もちろんです!」
気付いた時には、勇輝と桜はソフィアの両脇に抱えられ、猛スピードで廊下や階段を駆け抜けて行った。身体強化を施していなかったら、急加減速の反動で体を痛めてしまっていただろう。
一分も経たずに目的の部屋に到着したソフィアは、勇輝たちを下ろすと一瞬で鍵を開けて中に入るように促す。勇輝は顔を引き攣らせながら、桜と共に部屋の中に入ると、勢いよく背後の扉が閉まった。
「な、なんなんだ一体……?」
「何か勘違いしたという割には、ただ急いだだけって感じだけど……」
首を傾げながらも勇輝たちは入った部屋の中を見回した。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。