聖教国サケルラクリマⅢ
やっとのことで屋外に出る扉を潜ると、また一つ階段が待っていた。
ただ、その荘厳な雰囲気から、この先に星見の祭壇があるのだと察する。黒騎士の先導に従って歩いていくと、そこにはアルトや黒騎士隊隊長ソフィアが立っているのが見えた。
しかし、久しぶりに会った彼女たちに気軽に声を掛けられるような状況ではない。何せ、円を描くようにして等間隔に並んだ十二人の神官――枢機卿――が、静かに立ち並んでいたからだ。
「あれが……この国のトップの十二人か。ある意味で想像通りって感じの人たちだな」
黒い服に身を包んだ枢機卿たちは、そのほとんどが老人と言って差し支えないほどの外見をしていた。その大半は姿勢も良く、眼光も鋭い。見た目だけで判断をしたら痛い目に遭いそうだと勇輝は感じ取る。
「来たようだな」
枢機卿の一人が一歩前に出て勇輝たちの方へと視線を向ける。丸い眼鏡の奥に細められた青い瞳があり、微動だにせずに勇輝たちを見つめていた。
「聖教国へようこそ。私は枢機卿の一人、リブラという者です。ここで全員のまとめ役をしています。この度は転移とはいえ、ファンメル王国から遠いこの地まで来てくれたことに感謝いたします」
勇輝と桜はリブラ枢機卿の挨拶に頭を下げながらも、どう対応していいかわからず顔を見合わせる。
「お二人とも、私の横に」
その時、アルトが助け舟を出してくれた。彼女が示す手の位置に、二人で進み出る。
陽光を照り返す白銀の髪を風に揺らしながら、この場に佇んでいる彼女には慣れ親しんだ場所なのだろう。灰色の瞳をリブラ枢機卿同様に動かすことなく、凛とし佇まいでいた。
「リブラ枢機卿。ファンメル王国の遣いということだったが、送られてきたのは日ノ本国の出身の子供ではないか。こんな非常時に遊んでいる場合ではないのだぞ!」
唐突に、輪の中の枢機卿の一人が声を荒げる。坊主頭で年の割にはがっしりとした姿も相まって、面と向かって言われているわけではないのに威圧感があった。
表立って非難はしないが、他の枢機卿の何人かも顔を何度か頷かせている。
それは勇輝も仕方がないと思った。王族でもなければ、そもそもファンメル王国と関係がよくわからない子供が来たのだ。場合によっては馬鹿にしているのかと言われてもおかしくはない。
「レオ枢機卿。気持ちはわからなくはないですが、本人たちの目の前です。もう少し言葉を選んだ方がよろしいかと」
「何を言っている? 勇者候補のふざけた言い訳といい、この協力者たちといい、ファンメル王国はこちらを馬鹿にしているとしか思えない!」
「彼らの実力も把握しない内に決めつけて話すのはマズいと言っているのです。一国の主が世界の危機に軽率な判断をするとは思えませんからね」
リブラ枢機卿は軽くため息をつくと、勇輝たちの方へと向き直った。
「お気を悪くされたら申し訳ありません。ただ、世界を守る為だけに長年修行して来た身なので、魔王復活の前兆に気が立っているのも事実なのです。ご理解をいただけると助かります」
「いえ、みなさんがいろいろと尽力されているのは、アルトーー聖女がファンメル王国に危険を冒して訪れた時からわかっています。急にどこの馬の骨とも知らない輩が現れたら、誰だって警戒するのは当たり前でしょうし……」
勇輝がフォローの言葉を添えると、リブラ枢機卿はわずかに目を伏せた。その反応に勇輝はリブラ枢機卿が、気苦労の絶えない善人であると感じ取る。レオと呼ばれた枢機卿も、己の職務に忠実なだけで、その想いが思わず口を衝いて出てしまったといったところだろうか。
微妙な雰囲気の中、アルトが何の前触れもなく前に進み出る。
「レオ枢機卿。もしも、あなたが彼のことを頼りにならぬと感じているのならば、大きな誤りであると進言します。彼は魔法を習得してから数ヶ月で、幼体とはいえバジリスクの撃退に寄与した勇敢な剣士です。黒騎士隊隊長の使う魔力制御・最大解放を再現してしまうほどの才能もあります」
バジリスクやマジックバレルの単語が出た瞬間、枢機卿たちの顔色が変わった。
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