聖教国サケルラクリマⅠ
魔法学園が始まるまで一週間。
勇輝と桜はアメリアの転移魔法によって、聖教国サケルラクリマの王都・カルディアに来ていた。
「言われてみれば当然なんだけど……。アメリアさん、この国にも来ていたんだ」
転移魔法の効果は、自国領土内から自分が訪れたことがある場所に向かっての一方通行。ただし、自国領土内という条件は非常に緩いものだと判明している。
例えば、他国の領土内であっても自国の大使館であったり、自分たちの保有する船である場合は発動できていた。
カルディアから帰る方法を聞いた時には、「アメリアが迎えに来る」と言われている。恐らくは、カルディアのどこかにも大使館があるのだろう。
「お前も条件が揃えば、元の世界に転移できるとか言い出さないよな?」
『悪いな。そこまで器用でもなければ、捻くれてもいねえ。俺はお前の望んでいた通り、元の場所に戻るしか能がないんだよ』
心刀はため息交じりに呟く。
鞘がある場所に心刀が納まるように戻って来る。或いは、心刀の刃に鞘が納まった状態になるように移動する。この二つが心刀の持つ転移の能力だ。
付け加えるなら、この時に移動する方に触れていたものは纏めて一緒に転移するということくらいか。おかげで、死にかけた攻撃を転移して避けることが出来たこともあった。
もしも、日本に転移できるのならば、桜と共に行くこともできるし、逆にこの世界へと戻ってくることもできる。しかし、その希望は心刀にあっさりと打ち砕かれてしまった。
「まぁまぁ、勇輝さん。その為に、こうやって地道に情報を集めてるんでしょう? 簡単に見つかるものほど、怪しかったり上手くいかなかったりするものだよ」
「そういうもんかな?」
街の中に入り、ひたすら石畳の斜面を登っていた勇輝は平坦な道に出たところで足を止めて振り返る。
階段状に整理された区画に並ぶ白や茶色の屋根と壁――レンガや石で作られた家々が立ち並んでいる。街を取り囲む外壁の南側には緑色の草原と褐色の砂漠が見えた。その先には青い海が微かに見える。
「昔、バジリスクの毒で不毛の大地になったんだっけ? 前回の魔王の時とは限らないけど、最低でも百年以上。緑が戻ってきていることを喜ぶべきか、まだ砂漠が残っていることを悲しみべきか」
魔王の右腕と呼ばれる毒蛇。あらゆる体液が毒であり、その目に睨まれた者は石化するという最強クラスの魔物だ。かつて、この都市にバジリスクが侵攻した際に、多くの犠牲を払って討伐することに成功したと聞いている。
「魔王だけでも謎に包まれているのに、そういった強大な魔物の存在も一般には知られていないって考えるとやっぱりおかしく感じる。わざと情報を途絶えさせているような……」
「それも、あそこに行けば教えてもらえるかもしれないな」
勇輝はもう一度振り返って坂の上にある建物を見つめる。
ただでさえ、坂道になっていて高い所にあるというのに、そこからさらに天高く聳え立つ塔があった。聖教国が祀るのは名も知れぬ星神。その声を受け取るべく、より天に近い場所でと建設されたものらしい。
その最上階には星見の祭壇があるとされ、朝方や夕方の昼と夜が交わる時間に聖女が祈りを捧げて星神の声を待つのだとか。
「この宗教国家を動かす十二人の枢機卿と聖女がいる建物か。何だか、緊張するな」
「あはは。まさか、日の変わらない内に、別の国のトップに会うなんて普通はないからね。あ、でも、それを言ったら日ノ本国にいた時と変わらないじゃない。ほらほら、さっさと行こうよ」
「日ノ本国は、まだ地元感があったから良いんだよ。俺のひい婆ちゃんもいたから。でも、ここはそうじゃないからさ」
上手く言語化できない自分に苛立ちつつも、勇輝は桜に促されて次の坂道に向けて足を踏み出した。
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