不穏な呼び出しは突然にⅤ
勇輝は桜と一緒に、どんな依頼があるかを考えると同時に、自分たちが何を要求できるかを話し合った。
もちろん、国側から事前に決められた報酬が提示されるのが当たり前だが、万が一のことも踏まえておくのは大切だ。その場面になって急に話し合うこともできないだろう。
第一に転移魔法に関しての情報。第二、第三と予備の案として、何が相応しいか。それを考えるだけでも時間がかなりかかってしまった。
気付けば、通達された正午の時間が近付いて来る。軽く昼食を済ませて、二人は王城に向かうことにした。
「うー、耐寒装備をしていても、これだけ寒く感じるってことは、来てなかったらもっと寒いってことだよね」
「そうだな。体感温度でもかなり違うと思うから、あるのとないのとでは大きいだろうな」
そんな二人は自然と手を繋いで王城と魔法学園を隔てる城壁の門を潜る。
既に陽も高く昇っているので、城勤めの騎士たちはあちらこちらに行き交い、各々の仕事に取り組んでいる。鍛錬場がある方からは、木剣を打ち合う音や気迫の籠った声が聞こえて来た。
そんな中、王城の前にまで辿り着くと、警備の騎士がその場で待つようにと告げる。
今まで何度か入ったことがある王城だが、緊張しない時はない。桜と顔を見合わせて、他愛ない話をしようと口を開く。
「む、そこにいるのは水銀事件の二人か?」
「し、シルベスター伯爵!?」
急に後ろから現れたのは宮廷魔術師のシルベスター伯爵だった。王国内の硬貨に関する担当者で、偽造や損壊をしようものなら、老体とは思えぬ恐るべき速さで駆け付ける。
「話は妻から聞いている。領地に出現した新種の魔物を討伐してくれた、とな。加えて、先日のキマイラ侵入事件でも大きな活躍をしたという。まったくもって素晴らしい」
「あ、ありがとうございます」
恐縮しながらも頭を下げると、伯爵はそういえば、と思い出したように桜の方を見る。
「例の杖が完成したとロジャーの奴から聞いたが、どういった具合だ? ぜひ、共同出資者でもある私にも見せて欲しいのだが?」
「わかりました。少しお待ちください」
桜はポケットから杖を取り出す。
真っ直ぐな柄の先に一対の翼がついているそれを見て、伯爵が目を丸くした。
「聞いてはいたが、なかなか面白い意匠にしたものだ。それで? その先があるのだろう?」
「はい。少しお待ちください。『逆しまに、時を跨ぎし、我が杖よ。汝のあるべき姿に戻れ!』」
術式によって小さくなった杖を大きくする呪文。
桜の足下に銀色の十二芒星の魔法陣が浮かぶと、一気にワンド型からスタッフ型へと姿を変える。それを見て、伯爵が目の色を変えた。
「ほう……ほう! これが例の杖か。少し触ってみても良いかな?」
少年のように目を輝かせる様子を見て、勇輝は彼もロジャーと同じで、新しい作品――特に今までになかった物や技術――には目がないと感じ取った。
魔法学園では「探求心こそが人を育てる」というモットーが、その意味では年を取ろうとも興味を失うことなく研究し続ける伯爵や制作の発案者であるロジャーは、まさしく魔術師の鑑と言えるだろう。
「この手触りもよいが、身体強化を施さずとも取り回しのいい重さ。そして、記憶が正しければ元の木材としての硬さは一級品。折れるどころか欠ける心配もない。使えば使う程、その強度も魔力保持力も上がることを考えると、数十年後の姿を見てみたいものだ」
杖の角度を変えて、杖の木目の一つ一つを確かめるように眺める伯爵。
その姿に呆気にとられながらも、使わずとも杖が良いものだと判断できる知識に驚嘆せずにはいられなかった。
ただ、杖の能力は使ってみなければわからない。あまりにも強すぎる能力に、勇輝と桜はそれを告げるべきかどうか判断がつかないでいた。
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