不穏な呼び出しは突然にⅣ
勇輝は部屋の中へと入ると、鍵を閉める。
既に桜が部屋の中を温めていてくれたおかげか、コートを脱いでも肌寒く感じることはなかった。
それでも勇輝は二の腕を擦りつつ、桜と共に椅子に腰かける。
「実は結界を見に行った時に、城の関係者に呼び出しを受けてさ。国王様が呼んでいるから桜と一緒に城に来いって」
「私も?」
「あぁ、正直なことを言うと、こういう偉い人たちからの依頼は危険な目に遭うことが多い気がする。だから、俺としては断りたい気持ちが強い。依頼の内容を聞く前からな。桜に何かあったらって考えると、さ」
「それはどちらかというと私の台詞だと思うな」
桜のジト目と共に放たれた言葉に、勇輝は息を詰まらせる。
確かに桜の言う通りであった。どちらかというと勇輝の方が遥かに危険な目に遭っている回数が多い。状況が状況だったと言えばそれまでだが、反論の言葉が見つからない。
「でも、悪いことばかりじゃないと思う。ライナーガンマ公爵の領地で、蜘蛛の大群を倒した時のこと覚えてる?」
「あぁ、絡新婦とその子供たちだよな? アレは思い出すだけで怒りが湧いて来るよ。いろいろな意味で」
人間の死体の中に潜んで襲い掛かる戦法も、日ノ本国で生贄にされた女性の末路であったことも、どちらも気分が悪くなるという言葉では片付けられない悲惨さだったことは確かだ。思い出すのも嫌になるほどの。
桜もそれは同意しているようで、あまり良い表情は浮かべていなかった。
「あの時に、公爵から褒美として条件を聞かれたでしょう? ミスリル原石だとか、保管されている貴重な本の閲覧許可とか」
確か、ミスリル原石はクレアが実家の領地の外壁が崩れた為に譲ってほしいというような交渉をしていた記憶がある。そして、桜やアイリスは蔵書の閲覧。
勇輝の場合はアメリア姫の使う転移魔法の情報だった。
確かに桜の言う通り、交渉することは可能だろう。しかし、それを成功させるためにはいくつか乗り越えるべき壁がある。
一つは、その情報を手に入れるだけの成果を挙げることができるかどうか。何の成果も出さずに報酬だけをいただこうなどというのは、流石に見逃してはくれないだろう。
もう一つは、国家防衛の機密情報は渡すことができないと言われる可能性だ。転移魔法は悪用すれば暗殺はもちろん、軍隊を敵国の中枢に送り込んで占領することが可能。そんな魔法の情報を渡して、逆にその使い手が増えてしまい、自分の国を危険に晒すということが考えられる。
切り札は開示せずに手に握っておくからこそ、使った時に真価を発揮するもの。その点、国王はその使い時というものを理解しているように思えた。転移魔法は存在するが、その発動条件や防ぐ方法などは想像の域を出ないような使われ方だ。もしかすると、ライナーガンマ公爵に教えてもらった情報ですら嘘であることがあり得る。
そして、最後に一つ。そもそも転移魔法が解析されているかどうか。魔法学園の教授が転移魔法に関する推論を述べたと聞いているが、確実にわかったというような話ではない。つまり、使っている本人ですら、魔法の能力を把握できていない可能性がある。
いくら活躍しようとも、褒美がそもそも存在しなければ意味がない。骨折り損のくたびれ儲けという奴だ。
「そう簡単に教えてもらえるとは思えないんだよな。どちらかというと、もう一人の方が話してくれそうな気がする」
「もう一人って――もしかして、クロウ、さん?」
月の八咫烏を名乗る日ノ本国の元諜報部隊所属の犯罪者だ。上級魔法を操る実力だけでなく、魔眼を使った状態の勇輝でも近接戦闘で圧倒されるほどの戦闘に長けた人物で、何度か転移魔法を使う場面を見たことがあった。
敵対関係だが、一時は共闘したこともある。場合によっては、自慢気に知識をひけらかしてくれる可能性もゼロではない。
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