不穏な呼び出しは突然にⅢ
勇輝の警戒を感じ取ったのか、ケアリーはすぐに歩みを止めた。
「その様子を見るに――例の話を聞いたのかな?」
「例の話というのは?」
「……そうか。詳細は直接伝える形になるか。いや、先日の特殊ダンジョンの件といい、キマイラの侵入事件といい、君たちには何度も助けられている。本来は我々、国王の剣たる騎士がするべき役目だというのにな」
ケアリーは申し訳なさそうに首を振る。
その肩には勇輝が想像しきれないほどの重荷が圧し掛かっているかと思うと、返す言葉が見つからない。
「すまない。自分たちの不甲斐なさに弱音を漏らしてしまった。それで、その礼の話についてだが――これも先に謝罪しておこう。また、こちらからの依頼となる。恐らくは、かなりの大仕事だ」
勇輝はケアリーの言葉に苦笑いを浮かべる。王城に呼ばれる時点で、大仕事じゃない人間がいるのであれば、逆に見てみたいものだ。
ただ、冷静に考えるとファンメル王国も強い兵はいるように思えるが、国土が広いせいか、はたまた別の理由か、手が回っていないように思える。それも魔王の復活が関係しているのかもしれないが、キマイラの侵入の件と併せて考えると、少しばかり心配だ。
「わかりました。これから、桜を起こして城に向かおうと思います。もし、またどこかでご一緒することがあれば、よろしくお願いいたします」
「ふっ、君ならば十分にその資格はありそうだ。もしも、君がこの国の出身であったならば、最強の剣と盾を名乗っていたかもしれんな」
「そんなことないですよ。それにファンメル王国にはローレンス辺境伯がいらっしゃるじゃないですか」
マリーの父にして蓮華帝国との国境を守るローレンス辺境伯。その実力は彼を知る者なら誰もが「デタラメ」と評するほどの強さだ。比べることすら間違っている。
否定をする勇輝だったが、ケアリーは小さく首を横に振った。
「確かに、君の素の膂力はアイツには及ばないだろう。しかし、身体強化の身のこなしは劣っているとは思えない。それに何より、だ。その劣っているはずの力で、日ノ本国の鬼を切り裂いたのは事実だ。私の見立てでは、アレックスの馬鹿力でも首はおろか、腕一本落とせそうにないと思うのだがな」
それは流石に言い過ぎだと勇輝は感じた。きっと、何度も王国側からの依頼をこなしている勇輝へのリップサービスだと。
そんな勇輝にケアリーは数秒ほど、真剣な表情で見つめて来た。それが本当に思っていたことであると言わんばかりの揺らぐことのない瞳に、勇輝は唾を飲み込む。
「……おっと、失礼。これから少し外壁の門に連絡をしに行かなくてはいけないのだった。まったく、結界が壊れたのならば、それは宮廷魔法使いたちの役目だというのに人使いが荒い国だ」
冗談を言いながら足を踏み出したケアリーに、勇輝は道を譲る。微かな足音を立てて去って行くケアリーの背を見送り、勇輝は寮へと急ぐことにした。
寮に足を踏み入れる前に、軽く雪と泥を落とし、足を滑らせないように階段を上っていく。桜の部屋の前まで行くと、ちょうど桜が扉から出てくるところだった。
「あ、勇輝さん。おはよう。どこに行ってたの?」
「ちょっと結界が心配だったから、見晴らしのいい塔から確認しに行って来たんだ。近衛騎士のケアリーさんとかまで動いているから、今のところは平穏無事だと思いたいな」
「そう。良かった……。何か事件に巻き込まれてないかと思って、探しに行こうと思ってて」
胸を撫でおろし桜は、扉を開いて勇輝に中に入るように体を翻す。そんな彼女の背を押して、勇輝は扉を掴んだ。
「ほら、まだ外は寒いから中に入りなよ。少し大切な話があるからさ」
「大切な――話?」
桜の背に当てていた手に、彼女が強張るのが伝わって来た。
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