不穏な呼び出しは突然にⅡ
その成果もあってか、自分の背後に音もなく近付いている人物の気配を感じ取り、勇輝は振り返った。
「……何か、用ですか?」
そこに立っていたのは王国の鎧を着た人だった。頭部も兜を被っており、顔を見ることができない。
「ユーキ・ウチモリだな? 国王様から直々のお呼び出しだ。同室している少女と共に、本日、正午。王城前に来られたし」
有無を言わせぬ物言いに、勇輝は慌てることなく頷いた。
何度か王族や貴族から無茶振りや呼び出しをくらった結果、随分と慣れてしまったようだ。もちろん、あまり喜べることではないが、人によっては名誉なことだと打ち震えるかもしれない。
騎士が踵を返して塔を下りて行くのを見送って、勇輝は誰に言うでもなく呟いた。
「俺の情報、把握されすぎだろ……」
いくら近くの魔法学園の寮にいるからといって、そんな簡単に居場所や桜と一緒に寝泊まりしていることを王族に知られているというのは異常すぎる。
『便利な魔眼持ちで、倒した魔物が有名すぎるのもある。まだまだ弱っちいが、それでも一般人と比べれば上の方だと認識されてるんだろ。これからも扱き使われるのが嫌なら、お前のことを知らない国に逃げるんだな』
「できたら苦労はしないさ。何せ、元の世界に戻ることができる転移魔法の使い手がいるんだからな」
第二皇女の転移魔法は、自分が訪れたことがある場所に転移できる魔法だ。それが使えるようになれば、勇輝は元の世界に戻ることができる。
そんな帰還直行便のヒントが転がっている場所から逃げるなど、はっきり言って時間の無駄にしかなり得ない。多少の危険を覚悟で、習得するチャンスを伺うだけの価値がある。尤も、転移魔法を使う一般人など、国からすれば危険分子以外の何者でもない。
使いようによっては暗殺し放題からの逃走し放題。悪用されれば国が崩壊しかねない魔法だ。そのガードを簡単に崩せるとは思えない。
それに魔眼を使って、何度か転移の様子を見る機会があったが、何が起こっているのかを理解できるようになるには、そもそも魔眼が何を見ているかの理解が必要になる。だが、魔眼を使い過ぎればヤバいことが起こると何人にも警告されている為、簡単には見破れないだろう。
勇輝も塔を下りながら、思考を巡らせる。
「お前も転移魔法擬きが使えるんだから、何かヒントはないのか?」
『知っているなら、すぐにでも話してやってるさ。いろいろと思うところがないわけじゃないが、俺はお前、お前は俺。自分の幸福を願わない奴は、普通はいないからな』
「それもそうか……」
釈然とせず、首を傾げる勇輝。心刀もそれ以上は言うことはないとばかりに黙ってしまう。
少なくとも、当分は元の平和な世界に戻ることはできない。言い換えれば、こちらの世界に居続ける以上、生き残るには強さが必要になって来る。
どうすれば、より強くなれるのか。それを考えるが、なかなかいい案は浮かばない。ため息をつくと、想像以上に白い息が出て来て、思わずその行方を追ってしまう。
早朝ということもあり、人はいないと思っていたのだが、白から透明へと変化していく息の向こう側に、見たことがある人影を勇輝は見つける。
「……あれは?」
「むっ、君か。朝早くから体を動かしているとは素晴らしい。やはり、強大な敵を倒すには日々の鍛錬が肝要だな」
ブロンド髪をオールバックにした騎士。それは近衛騎士団団長を務めるケアリーであった。
腰に普段の剣を差してはいるものの、彼の恐ろしいところはあらゆる攻撃を無効化できる点にある。自らの職業名と同じ名を持つ究極技法・ロイヤルガードの使い手であり、その強さは王国トップレベルになる。
そんなケアリーとは共闘したこともあるのだが、先程の呼び出しのことを思い出して、思わず警戒心が芽生えてしまった。
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