不穏な呼び出しは突然にⅠ
雲一つない晴れたある日。
夜の内に積もった雪を踏みしめながら、内守勇輝は外を散歩していた。既に溶けだしている雪が地面のぬかるみを作り出し、石畳でないところは茶色の染まっている。
王城を取り囲む城壁の一部となっている砦。現在では魔法を学ぶ学園として利用されているが、その中のある塔に向かって勇輝は歩いていた。
十数分かけて一番上まで辿り着くと、深呼吸をして魔眼を開く。
魔眼にもいろいろな種類があるが、勇輝のそれは「人や物の性質を放たれる光の色で判別できる」と今のところは考えられている。そんな魔眼の視界には様々な光が認識される中、勇輝は一通り王都の街並みを見渡して大きく息を吐いた。
「何事も無さそうだな。まぁ、変な事件が何度も起こっても困るけど」
先日、魔物を引き連れた魔法使いが、勇輝たちを襲撃するために王都へと単身で乗り込んで来た。幸い、幻覚魔法を見破れる勇輝がいたことと、近くに頼もしい仲間や教員がいたことで撃退できたが、犯人には逃走を許してしまった。
尤も、その本人は指名手配され、家族には国王から重い罰が与えられているのだが、今後、どういった形で追手がかけられるのかは不明だ。だからこそ、勇輝はせめて魔眼で王都に異常がないかを事件の次の日から確認する様にしていた。
『まったく、仮にそいつが侵入していたとしても、この前みたくデカい魔物を連れて来るとは限らないだろ。結界なんて破壊せずに堂々と一人で姿を誤魔化した正面突破の方が、見つかりにくいだろうぜ』
金属質な声が勇輝の脳内に響き渡る。その声の持ち主は、勇輝の腰に差してある心刀と呼ばれる刀だった。
「やらないよりはマシだ。それに気になったまま生活するのも気持ちが悪いからな」
『そうかい。ま、それが逆に油断にならないように気を付けてくれ』
「そうするさ。あんな魔物に殺されてやるほど、俺も暇じゃないからな」
この世界に転移してから約半年。未だに元の世界に戻る手掛かりは、ほとんど見付けられていない。
それどころか、この世界にいずれ復活するとされる魔王への対処に動く日々だ。
「年が明けて、魔法学園の授業が再開するまで、あと数日――多分、それまでに偉い人たちが新しい結界とかを張り直してくれると俺は信じているけど。それもこの前の魔物くらいで抜けて来られるのなら、魔王相手には厳しいだろうな」
そんな魔王とどこで戦ったか、どんな能力を持っていたかはわかっていない。今までに何度か戦っているにもかかわらず、情報がほとんどないことが逆に不安を掻き立てる。
『いつも通り、見えない相手に心配ばかりだな。そんなんじゃ、愛しの彼女を不安にさせるだけだぞ』
「う、うるさいな。桜がいるからこそ、心配になるんだろうが――わかってて言うなよな」
ほぼ婚姻関係にあると言っていい少女・言之葉桜。
陰陽道を始めとする術を習得しながらも、このファンメル王国に留学している。一時は、彼女の実家である日ノ本国に戻ったものの、魔王関係のこともあって、友人が心配で戻って来た。
今は、勇輝と共に寮の同じ部屋で過ごしながら、魔王の資料を探しながら、魔法の鍛錬に励む日々を送っている。今日も、この後は午前中の間、図書館に籠りきりになるだろう。
『まぁ、いいんじゃないか? 頭を働かせる余裕ができたってことは、体が休めている証拠だからな。もちろん、弛んでもらったら困るから、必要な時は――わかってるよな?』
心刀に共通する能力は起床中は幻覚を、睡眠中は夢で今まで戦った相手を再現すること。こちらの状況を考えることなく発動することが多いらしいが、幸いにも勇輝の心刀はかなり空気を読んでくれている方だ。
むしろ、勇輝としては、今度ともその能力のお世話になりたいと思っている。
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