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明日への不安Ⅲ

 桜の杖の持つ特徴は頑丈で軽いこと。そして、通常の杖よりも魔力を保持する量が多いこと。


 その点においては、シルベスター伯爵領にいる時からわかっていたことだ。だが、勇輝は桜の杖を戦っている最中に魔眼で見た時のことを思い出し、頭の片隅にあった記憶と照らし合わせる。


 木の枝を切り落とす瞬間、枝と同じ形をした光がいくつも重なって見えていた。それは切った後、杖となった状態でも同じ。


 もし何かあるとすれば、その揺らいでいる光がそれを知る手掛かりになると勇輝は考えた。



「桜、その杖で簡単な魔法を使って見てくれないか?」


「え? いいけど、じゃあ……『火よ灯れ』」



 翼の間から火が生み出される。それを魔眼で見ていた勇輝は、眉を顰めた。


 桜の纏う光は赤と白。それらが手から杖の柄に流れ、杖先へと向かって行くに従い、濃い赤色へと変化している。ここまでならば、いつもと変わりない光景だが、かすかにその光がブレて見えた。


 桜の杖先で赤い光が飛び出て、火となって輝き消費されている。見ている対象によって纏う光は異なるが、その内の一つは魔力なのだろうと勇輝は推測していた。


 しかし、今までと異なる点が一つある。それは杖から空気中に放たれ、消費されていく光に対して、ぶれている他の杖の光に流れている赤い光が放出されることなく留まっていることだった。



「その炎、消せる? その後、詠唱せずにもう一回つけたりとか」


「うん、出来るけど……。流石に、何度も練習した魔法だから――え?」



 勇輝の言う通り、灯った火を消し、その後にまた火を復活させた桜。しかし、その表情と声には驚きと戸惑いの色が混ざっていた。



「……勇輝。彼女に何をさせたんだ? 明らかに想定していなかった出来事が起きてるように僕は感じたんだけど」


「それは桜に聞いてみた方が早いんじゃないかな? どうだった? 無詠唱魔法で発動する感覚だった?」



 勇輝の推測は、桜が発動させた魔法は無詠唱とは違うもの。それを遥かに上回ることが起きていると考えている。


 それはどうやら当たりだったらしく、桜は首を横に振った。



「ううん。全然違う。何ていうか……コップの水を飲み干したのに、またコップに同じように水が注がれてた感じ」



 やはり、と勇輝は小さく頷く。頭痛がするので、それ以上は動かずに魔眼を解除する。



「勇輝。何か、わかった?」


「あぁ、多分だけど、桜の魔法は一回詠唱するだけで、二つ以上に複製されていると思う」


「複製?」



 アイリスを筆頭に、説明を求める視線があちこちから飛んで来るので、勇輝は呼吸を整えながら話し出した。


 まずメインで見えている杖の形をはっきりと映し出す光。これに流れ込んだ魔力は、肉眼で見えている魔法の発動にそのまま直結している。しかし、その時点で弱く見えている光――仮にこれをサブとする――には同じ魔法が発動待機状態で存在しているのだが、実際には杖から放たれていない。


 そこでメインの魔法が発動し終えた瞬間、そのサブの光が急に強くなってメインと入れ替わり、いつでも発動できる状態になったところに桜の意思で発動したといったところか。


 魔法を詠唱した時点で、勇輝のガンドの装填と同じ状態になっていると言い換えてみる。するとアイリスやフェイはその説明がしっくり来たのか、表情が幾分か和らいだ。



「複製呪文と遅延呪文の合わせ技。やっぱり、無詠唱よりもレベルが高いことをしてた」


「遅延呪文?」


「そう。勇輝の言った通りなら、発動させる呪文を数秒から数十秒待機させる技術。一応、それ専用の呪文もあるけど、桜はそれすらもすっ飛ばしてる。三つの魔法を同時発動して、そのうち二つは無詠唱とか反則にもほどがある」



 具体的な数字で語られると、桜のやっていることがどれだけ異常かよくわかる。普段から複数の呪文を使うことに慣れていたからこそ、発動で来たのだろうと勇輝は思ったが、桜はそれを否定する。



「私、その魔法の発動方法も詠唱の仕方も知らないんだけど……」


「じゃあ、それが杖の能力? そうだとしたら、とんでもない価値がつきそう」



 アイリスがじっと桜の杖を見つめると、他の仲間たちも次々に杖を眺め始めた。

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