明日への不安Ⅰ
岩の槍に貫かれたキマイラは、足をばたつかせていたが、数秒程すると四肢から力が抜けて動かなくなった。
勇輝の魔眼にも、キマイラから発せられる光が無くなっているのが見える。ちょうど、最後の強い光があった背中部分を桜の魔法が貫いていた。
「ま、間に合った……」
ほっとした様子で桜が大きく息を吐き出す。緊張が解けたせいか、その場に座り込んでしまった。
「お、おい、桜、大丈夫か?」
「な、なんとか、ね……」
すぐにマリーが駆け寄って桜の肩を揺する。桜は無事であることを告げながら、何とか笑みを浮かべているようだった。
肩越しに振り返った勇輝は唖然とする。まさか、狙われていた桜自身がキマイラに引導を渡すことになるとは思ってもいなかった。何よりも――
「岩の槍を、二本同時に?」
初級魔法はそれぞれの属性の魔法をいくつも放つタイプのものだった。それに対し、中級魔法は一発で大きなダメージを与えたり、一定の範囲をまとめて攻撃する特徴がある。その為、今まで中級魔法を同時に扱う場面はほとんど見たことが無かった。
俺は副作用で若干の気怠さを感じながら、桜の下へと歩いていく。駆け寄って来たアイリスやフランも、岩の槍のことに勇輝と同じ感想を抱いたのか、桜へと問い質していた。
「えっと、初級魔法でもできたから、中級魔法でもできるかなって……」
「桜。初級魔法は、本数の指定を詠唱でしてる。だから、元々、複数放つことが前提。でも、中級魔法は、単発が基本。つまり、桜は魔力制御で無理矢理、魔法の発動数を増やした……?」
アイリスは確信がなかったのか、語尾が尻蕾になりながら首を傾げてしまう。その横で、フランは何度もキマイラの方を振り向きながら、アイリスの背中を押そうとしていた。
「そ、そんなことはいいですよ。とりあえず、危ないからどこかに避難しましょう!」
キマイラにはガーゴイルが群がり、体を押さえ込んでいるように見える。まるで、巣を襲って来た敵に反撃するミツバチのような状態だ。あれでは、仮に生きていたとしても、そう簡単には動けないだろう。
ここから逃走したギャビンのことは気になるが、下手に動いて大人たちの邪魔をするわけにもいかない。勇輝は魔眼を開いて、ギャビンが潜んでいないか確認しながら領までの道を先導しようとする。
「勇輝。殿を頼めるかい? 全員が視界に入っていた方が、君も安心だろう? 先頭は僕が行こう」
そう告げたフェイはガーゴイルに向かって片手を上げた。まだ、空中を飛んでいた何体かが寄って来て、空中で停止する。
彼らにフェイは勇輝の背後を護衛する様に頼むと、すぐに真後ろと左右斜め後ろにガーゴイルが着地した。
「任セロ。先程ハ仲間ガ不甲斐ナイ姿ヲ見セタ。今度コソ守リ通ス」
「――ということだそうだ。勇輝、後ろは気にせずにこっちに集中してくれ」
「……フェイ。お前、いつのまにガーゴイルと親しくなったんだ?」
勇輝も話せないことはないが、それは魔法学園入り口にいるガーゴイルのみで、それ以外の個体とは基本的に話したことがない。謎のコミュ力に驚いていると、桜を立たせたマリーが勇輝の顔の前で手を振った。
「おい、ボーっとしてるなよ。こういう時こそ迅速に避難だ。いつものお前なら、そう判断してるだろ。しっかりしろって」
「あ、あぁ、そうだな。フェイ、どんどん行ってくれ。体の感覚は元に戻り始めてるから」
魔力制御・最大解放の副作用である時間間隔の乖離は、幸いにも重症化せずに治まって来ていた。今まで何度も発動する度に使用できる時間が延び、副作用から元に戻る時間が短くなっているが、それでも副作用に悩まされるということは、体がまだ鍛えられていない証拠ということになる。
勇輝は己の不甲斐なさに歯噛みしつつも、前を歩くサクラたちを追いかけた。
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