キマイラを操る者Ⅵ
放ったガンドをキマイラはたてがみを千切られながらも回避した。
桜に向かう最短距離から外れながらも、すぐに前脚を軸にして向きを変え――ようとしたところで、勇輝のガンドが右前脚を吹き飛ばした。
その場に崩れ落ちるキマイラに、さらにガンドが襲い掛かる。獅子の顔が吹き飛び、勇輝の魔眼から光の塊が一つ消え失せた。
「まだまだっ!」
接近し、心刀を抜き放つと同時に首を斬り上げる。厚い皮膚も毛もまるで水のように切り裂き、二つ目の光が両断されて霧散する。
勇輝が斬り上げた勢いで跳躍すると、それを待っていたとばかりにフランの火球が連続で襲い掛かった。もはや見る影もない頭部だった部分の傷口を焼き、再生しようと蠢いていた細胞が消し炭となって崩れ落ちていく。
「むぅ、フランに、出番を取られた」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ。何か他に足止めできる魔法とかあるんじゃないんですかっ!?」
「うーん。これ、とか」
フランが焦りを隠さずに叫ぶと、アイリスはしばし考えこんだ後に杖を振るった。
水の球が幾つも生成され、フランの火球同様にキマイラの顔だった場所目掛けて飛んでいく。火球と違うのは、それが爆ぜることなく、キマイラの体の中へと消えて行ったことだろう。
「えっ!? 今、水の球はどこに!?」
「喉の奥に押し込んだ。で、こうするっ!」
アイリスが杖を横一閃すると、勇輝が切りつけた喉から破裂した水道管のように水が勢いよく噴き出してきた。何が起こったのか理解できたようで、フランは火球を放ちながら顔を蒼褪めさせる。
「うっわ……」
「因みに、井の中でも爆発させたから、他の臓器にもダメージが行ってる、はず」
アイリスはさらに追撃を放とうと水球を創り出した。
その間に跳び上がっていた勇輝が落下する。尾の付け根を切り飛ばそうとしていたのだが、蛇の頭が勇輝を排除しようと先に襲い掛かった。
乳白色の鋭い牙の先から液体を滴らせ、勇輝の胴に噛みつかんとその体をばねのようにして一気に加速する。
「おい、今だ」
『あいよ、任せとけ!』
勇輝が呼びかけながら心刀を空中に放り出す。蛇が噛みつこうとした瞬間、その顎は空を切った。
「じゃあな」
恐らく、何が起こったか理解できなかっただろう。勇輝は蛇の真上に移動しており、そこからガンドを放っていた。
回数制限あり、かつ使用方法が限られた転移だが、それでキマイラの裏をかくことができた。蛇の頭は吹き飛び、その勢いのまま尻の辺りを貫いていく。
残るは翼の付け根である背中の一カ所のみ。残弾のガンドで十分に仕留め切れる。
少なくとも、この瞬間まで勇輝はそう思っていた。
「なっ!?」
次の瞬間、キマイラの纏っていた光が脈動し、背中に集まっていた光が全身に広がった。
次いで、空気が振るえたかと思うと、キマイラの体が爆散する。
誰かの魔法が炸裂したわけではない。キマイラ自ら、己の体を吹き飛ばした。自爆などでは決してない。なぜなら、勇輝の真下には一回り小さくはなったものの、欠損のないキマイラが悠然と佇んでいたからだ。
キマイラが爆発した余波でフランやアイリスの攻撃が一時とはいえ止んでしまった。それを好機と見たのか、キマイラが駆け始める。その速度は、小さくなったせいか、今までよりも幾分か早い。
「はっ、動きが早くても、辺り一帯火の海にしたら避けられないだろうが!」
マリーが杖を振ると、キマイラを中心に巨大な炎が天に向かって立ち上る。あまりの大きさに、火の中にいるキマイラの姿が見えないほどだ。
冬の寒さも忘れるほどの熱風に思わず、勇輝は顔をしかめる。
「――しまった!」
しかし、魔眼には炎の中を動き続けるキマイラの姿が映っていた。最初は地面を転がる動きを見せていたが、炎が止まないと見るや元々走っていた方向に向けて加速し始めた。
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