キマイラを操る者Ⅳ
―― 魔力制御・最大解放。
自分の体内の魔力を巡らせる安全装置の強制解除。それで新たに追加された魔力を身体強化とガンドにつぎ込む。
「桜、伏せろ!」
ピンポン玉くらいだった魔力の塊が、野球ボールくらいにまで拡大する。ギリギリ見えるキマイラらしき存在に向けて放つ。
速度、威力共に申し分なし。
キマイラは勇輝が指を向けた時点で危険と判断したのだろう。咄嗟に体を捻って回避行動をとる。
超音波か何かで察知していた能力があったように思われるが、自信の命が危うくなると、野生の勘が鋭くなるものなのだろう。
ガンドはキマイラの胴を抉り、蛇の尾の頭を消し飛ばした。纏っていた水色の光が霧散し、黄色の光だけが勇輝の魔眼に飛び込んでくる。
「――急にキマイラが!?」
桜の驚きに満ちた声が響く中、キマイラは回避から一転。前脚が地面に着いた瞬間、再び、その顔が桜へと向く。どうあっても、桜を第一優先目標として狙いを定めているらしい。
勇輝は身体強化で一気に加速し、桜とキマイラの間に割り込んだ。
「『地に眠る鼓動を以て、その意を示せ。すべてを穿つ、巨石の墓標よ』」
同時に、桜が完成させた岩の槍がキマイラの真横から襲い掛かる。無防備な横腹に放たれたそれは、寸でのところで横転したキマイラによって躱されてしまうが、蝙蝠の翼をもがれてしまった。
「水属性魔法による幻覚。多分、上級か、それ以上の難易度っ!」
「片方は本物を再現し、もう片方は周りの風景に溶け込ませ認識させない。かなり複雑なことをやっていますね」
アイリスの説明に、フランが杖を背後に構え、周囲を警戒し始める。勇輝も同じように地上も空も魔眼を向けて探るが、他に怪しげな光を認識することはできない。
「でも、それだけ複雑なことを維持し続けるのは不可能です。都市部で激しく動く囮の幻覚、この場におけるダメージが精巧に表現された幻覚、そして本物を隠す幻覚。先程まで展開していた結界を修復しなかったところを見るに、三つが限界のようですね」
本物のキマイラにヴァネッサの爆撃が投下される。転がった先で爆発を浴びながらもキマイラは立ち上がろうとしていた。
「ちっ、こっちもしぶとい――!?」
もう一度、ガンドを放とうと照準を合わせた瞬間。キマイラが今までと違う動きをし始めた。
執拗に桜を狙っていたのにもかかわらず、自身を襲った岩の槍目掛けて唐突に疾駆していく。何事かとその動きを見守っていると、前脚を岩の槍にかけて、齧りつき始めた。
「おい、何をやっている! さっさとこいつらを片付けろ!」
ギャビンの声が鍛錬場に響き渡るが、キマイラはそれにお構いなしに岩の槍を砕き、貪っている。
そんな中、ついに勇気が待ち望んでいた存在が舞い降りた。魔法学園の各所に配置されていた石像であり、警備員でもあるガーゴイル。それが翼を広げて見下ろしていた。
「結界ヲ破壊シタト思ワレル人物ヲ発見。聴講生、勇輝。オ前ノ、ガンドガーー」
ガーゴイルの反応は当然だ。ここで起こった経緯を知らないので、結界を破壊したという一点において、勇輝を疑うのは正しい判断。
しかし、そこでヴァネッサが声高らかにガーゴイルへと呼びかけた。
「ガーゴイル! 魔法学園教授であるヴァネッサ・モリスの名の下に証言します。この騒ぎの元凶はギャビン・サリバンです。キマイラを生成し、この学園に侵入して来たのです。あなたたちを呼ぶために彼が展開した結界を破壊すると同時に、学園の結界を破壊したのです」
「――承知シタ。コレヨリ、ギャビン・サリバン、捕獲ニ移ル」
ガーゴイルのその一声で、どこからともなく何体ものガーゴイルが殺到する。
「ちっ、面倒なことになったか。キマイラさえ言うことを聞けば、こんなことには――」
顔をしかめたギャビンが杖を振ると、体を再生していたはずのキマイラの姿が水となって地面に落ちた。
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