キマイラを操る者Ⅲ
勇輝が結界を破壊できることを知っているのは極少数。したがって、ギャビンが対策を取っているはずがない。
仮に結界が破壊された対策があったとしても、最終的に行きつくのは同じ結界を張り返すというところだ。鍛錬場全体を覆う結界など魔力の消費がかなりあるはずだ。
対して、勇輝のガンドは結界の一部でも破壊してしまえば、それを無効化できる。消費魔力量的にも、ギャビンの方が圧倒的に不利。
「くっ、だったら援軍が来る前に終わらせるだけだ。行けっ!」
「みんな、広がれ!」
ギャビンの命令を聞くと同時に、キマイラが加速する。
フェイの叫びが木霊し、全員があちこちへと散る。しかし、キマイラは何故か桜がいる方向へと追尾して来ていた。
「な、何で私が!?」
迫り来るキマイラの姿を見て、悲鳴染みた声が桜の喉奥から押し出される。
勇輝は桜とキマイラの間に割り込みながら、眉を顰めた。空を飛んでいた時もヴァネッサではなく、桜を追っていた。そして、地上にいる時も桜を執拗に追いかけまわしている。だが、ギャビンは一切、桜を襲うような発言はしていなかったし、手や指の動きで桜を指定するようなこともなかった。
それでも桜が襲われているということは、彼女自身に何か狙われる要因があると考えるのが普通だ。
(見た目――じゃないな。服装ならマリーたちと同じような感じだし、色なら髪が黒いけど、俺も狙われるはず。そうなると目に見えない部分か)
匂いや魔力が原因となると、それは運が悪かったとしか言いようが無くなる。ただ、今は桜がキマイラに重点的に狙われやすいという事実を踏まえて迎撃すればいいだけだ。
ギャビンと話している間に装填した魔力で、ガンドを連続で放つ。当然、その速度は音速を越えており、次々にキマイラに着弾し、その肉を吹き飛ばしていく。
「これで、止まらない!?」
顔や足が抉れようとも、速度を落とすことなく疾駆する姿に、勇輝は恐怖を覚えた。さらに追加でガンドを放つと、顔の中心に突き刺さり、頭の後ろに突き抜けていった。
初めてそこで、キマイラは体の動きを止めて、地面に下顎だけ残った顔を擦りつけながら地面を滑っていく。
「ふう、これで何とか――」
言ってしまった後で、勇輝は表情を歪めた。まるで敵が再び立ち上がるフラグでも立てたかのようなセリフに、思わず口を手で抑えてしまう。
「ふっ、流石はミスリル原石の城壁を吹き飛ばしただけのことはある。だが、僕のキマイラは、その程度では止まらないぞ!」
ギャビンの声に呼応するかのように、キマイラの欠損した部位の傷口が蠢き始める。
「まったく、どいつもこいつも再生ばっかりしやがって。こっちの命は一つしかないんだよ!」
魔眼で観察するが、ゴーレムのように核となっているような部分は見当たらない。頭部を破壊しても駄目ならば、次は心臓を破壊するという手が浮かぶ。
即座に再生しようとしているキマイラの胸目掛けて、魔力を溜めた一撃を撃ち放つ。動きの鈍い今ならば、躱すこともできないだろう。
その推測は正しく、ものの見事に横倒しになっていたキマイラの胸に風穴が開き、血が飛び散った。
そればかりではない。上空にいたヴァネッサやマリーたちが放った攻撃が次々にキマイラへ着弾する。噴き上がる炎の肉を焼かれ、突き出る岩の槍に内臓を串刺しにされる。いくら再生できる力があろうとも、完全な姿に戻るには時間がかかるだろう。
そこまで考えて、勇輝はキマイラの放つ色にゾッとした。その輝きはいつのまにか水色一色に染まっている。
初めて見たキマイラの周囲には黄色の光が纏わりついていたはずだ。
慌てて、キマイラが狙っていた桜の方を振り返る。杖を構えながら詠唱をする彼女の姿があったが、勇輝の眼はさらにその後ろへと向けられていた。
いつの間にか回り込んでいた黄色と水色の両方の光を放つキマイラの姿を認識し、体内の魔力を全て解放する。
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