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キマイラを操る者Ⅰ

 目の前に立ち塞がった白髪の青年。頬はこけ、落ち窪んだ目の中心からは濁った黄色の瞳が睨むようにして見返して来ていた。


 あまりにも怪しいその姿に、勇輝はもちろん、誰もが足を止めた。



「誰だ、あんた!」


「誰、とは失礼だな。一応、君の診療をしたこともあるはずなんだけど……?」



 勇輝はゾンビのような青年の顔を見て、言われてみればどこか見たことがある気がする。ただ、それがどこで、いつの話だったかは全くと言っていいほど思い出せなかった。


 眉をひそめる横で、桜があっと声を上げる。



「もしかして、ギャビンさん……ですか? 過去視の魔眼を使う」



 過去視の魔眼と言う言葉で、勇輝はハッとする。


 路地裏で倒れた時に、冒険者ギルドで治療にあたってくれた魔法使いだ。最後にあったのは、バジリスクを倒して隣の村に背負われて辿り着いた時だっただろうか。



「おい、こっちはキマイラに追われてるんだ。さっさとそこを退けよ!」



 マリーが杖をギャビンの足下辺りに向けて突きつける。マリーのことだ。下手に言い訳をすれば威嚇射撃くらいはやりかねない。しかし、ギャビンは臆することなく両手を広げて進み出る。



「聞こえなかったかな? 君たちに逃げられたら困る、と言ったんだ。あのキマイラは君たちを殺すために生み出したんだからね」


「……何を言ってるんだ?」



 まるでギャビンは仇敵を見るかのような目を向けている。しかし、勇輝には少なくとも、彼に恨まれるようなことをした記憶はない。そもそも、記憶の中の彼とは似ても似つかない様子に、勇輝は警戒心を抱く。


 もしや、何者かが姿を真似ているだけで、中身は違う人物なのではないか、と。



「ふっ、加害者というのはいつだってそうだ。被害を受けた側がどれだけ苦しんでいるかを理解していない。――ならば、まずはそれを理解するところから始めないとね」


「ちっ、キマイラが来たぞ。避けろ!」



 背後からフェイの声が飛ぶ。すかさず全員が左右に飛び退いて、キマイラの突進を躱す。


 その際に勢いあまって、キマイラがギャビンの目の前にまで迫り、その身を食い千切るかと誰もが最悪の展開を予想した。



「……嘘、ですよね?」



 フランの口から漏れ出た声はかすれていた。誰もが人を殺すためにキマイラを用意し、使役しているなどというギャビンの言葉は信じていなかった。


 しかし、目の前に広がっていた光景は、ギャビンの前で反転し、唸り声を上げるキマイラだった。それは「本当にキマイラを手懐けている」ようにしか見えない。



「嘘なものか。こっちは苦労して、何度も魔物の合成に失敗しながら、やっとこいつを創り出したんだよ。そのせいでシルベスター伯爵領は少し荒れてしまったが、まぁ、必要な犠牲だった」


「まさか、双頭の狼や頭が狼のゴブリンを創り出したのも……」


「何だ。あの失敗作をしっているのかい? ならば、話は早い。アレを何度も創り出している最中に、やっと正しい方法を見つけ出してね。それで完成したのが、こいつってわけだ。残った失敗作を餌にして、ここまで強く育て上げた。あまりにも強くなり過ぎて、餌がパニックを起こして逃げ出してしまうくらいにね」



 シルベスター伯爵領に宿泊した夜、多くの双頭の狼が押し寄せて来た。あの時は何故かと疑問に思っていたが、その理由がやっとわかった。



「一応、確認するけど、王都にそんなものをけしかけておいて、無事で済むとは思ってないだろうな?」


「あぁ、そんなことかい? 下らない人間の王国などに恐れる必要などないさ。何せ、こちらには魔王様がついているのだから」



 ギャビンの言葉に全員がギョッとする。


 いつか復活すると言われ、その為に多くの人々が秘密裏に奔走していることを勇輝たちは知っている。だが、魔王がどんな姿で、いつ復活するのかを知る者はいない。


 それにもかかわらずギャビンの台詞は、まるで魔王と会ったことがあるかのような口ぶりだった。

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