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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第5巻 暗黒の淵にて、明星を待つ

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共歩きⅡ

 ダンジョン二日目の朝。僅かに白み始めた空ではあるが、時刻はまだ六時前であった。

 ユーキは欠伸をしながら、その空を眺める。いかに壁で覆われているとはいえダンジョンの中だ。上空からの奇襲も考えられれば、壁が破壊される可能性だってある。

 薪の一本が燃え尽きたら交代するということで、今はユーキとケヴィンの番だった。空の状況も見るとそのまま朝飯の用意をして、食べて準備を整えて出発する頃には七時か八時を回っているだろう。横を見ると半目をしたケヴィンが舟を漕ぎながら何とか起きようと自分の腕を抓っていた。


「ケヴィン。大丈夫か?」

「あ、あぁ。うん。何とか。野営中の見張りは、あまりやったことがなかったけど、こんなにキツイんだね」

「まぁ、慣れてないと眠っちゃうから仕方ないよな」


 両手を寝転んだまま思いっきり伸ばすとユーキは、その手を振り上げた反動で起き上がる。頭が若干くらくらして、目の奥にじんわりと軽い痛みが響いた。本当に徹夜で苦しくなると胃や心臓のあたりまで締め付けられるようになってくるが、幸運なことに他のメンバーの見張りのおかげで十分な睡眠はとれている。


「(あっちにいた頃は睡眠時間が六時間取れたら嬉しい方だったけど、こっちは日が沈めばやることがないからなぁ)」


 かつての自分の生活リズムを思い出しながら苦笑する。昔より、今の方が健康的な暮らし方をしていることに複雑な心境を抱きながら、ユーキは焚火の火を強くするべく、薪を追加する。

 本来ならこのように薪を使う予定ではなかったが、平原のダンジョンの入り口に木が密集していたのが救いだった。フェイの助言で乾燥こそしていないが、即席の薪を必要分作り出すことで、一夜を明かす程度の量を確保し、この後も重い荷物を背負うことなく出発できる。


「さて、朝のご飯はどうするんだい? まさか、君が?」

「まぁ、別に大したものじゃないさ」


 そう言って、ユーキは固く口が絞められた革袋を人数分取り出した。今回の冒険におけるユーキの発案アイテムである。一人用の鍋に水を入れると、その革袋を一つ中へと入れる。


「即席オートミールってね」


 オーツ麦と潰して乾燥させた木の実や肉の切れ端、軽くまぶした塩が袋の中に全部混ぜて入れられている。こうすることで、調理時にいちいち量を確認することなく簡単に料理ができる。難点はただ一つ。


「うん。味気ない」


 味が単調で好んで食べるかという点においては微妙である。それでもこれが選ばれたのは、フランの後押しでもあった。彼女曰く「これ、上手くすれば商品化できるかもしれません。ぜひ、今回の冒険にも!」とのことだったからだ。現代で言うならば、即席麺の類になるのだろう。

 自分の皿に移すとケヴィンの分を鍋に入れ、かき混ぜる匙をケヴィンへと手渡した。


「え、これは?」

「食べ物に余裕はあるから、自分の分は自分で作る。その間は俺が見張りながら飯を食う。そうすれば、みんなを起こさなくて済むだろう?」

「た、食べていいの?」

「あまり、おいしいものじゃないけどね」


 火にかけている間、ケヴィンが今度は焦げないように鍋をかき回す。ユーキは素早く、皿に移したオートミールに息を吹きかけて冷ましながら口の中へと入れて、よく噛みながら空を見上げた。既に何匹かの鳥が真上を通り抜けていく。いないはずの雀の鳴き声がどこかから聞こえてきそうであった。そんな中でケヴィンはぽつりとつぶやく。


「本当だったら、僕も仲間たちとこうやって飯を食ってたんだろうな」

「助けた後でまた食えばいい。時間なんていくらでもあるんだから」

「わからないさ。みんな()()()()()()()()()()


 その不穏な言葉にユーキは持っていた皿を足の上に置いた。喉を鳴らして、口の中の物を胃の中に落とすとケヴィンへと問う。


「ずっと気になっていたんだ。君たちのリーダーが慌てて君だけを逃がさなければいけない状況って、何なんだろうって」

「……」

「それはケヴィンの言うバケモノと関係があるのか?」


 爽やかな朝とは対照的にケヴィンの顔には暗い影が落ち、口は堅く閉ざされる。視線はかき回す鍋の中に向けられたままだが、その瞳には迷いが見られた。ユーキはケヴィンへとじっと眼差しを向ける。

 かき回していた腕が止まり、ゆっくりと上げた顔がユーキと正対した。


「僕の仲間は――――」

「あー、よく寝た。お、さっそく作ってるなぁ」


 いきなり飛び起きたマリーにユーキもケヴィンも思わず肩を揺らして驚く。マリーは寝起きとは思えない速度で鍋の傍まで近づくと、ケヴィンの横に座った。


「次、あたしの番な。味は大したことないんだけど、これはこれでおいしいんだよな」

「あ、あぁ、そうなんだ。楽しみだなぁ」


 空笑いを浮かべるケヴィンを見て、ユーキはしばし考え込んだ後、足の上の皿をとって残りを食べ始めた。どうやら、彼から話を聞くのはまだ無理らしい。

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