空からの刺客Ⅲ
フェイとマリーが軽く言い合いになりながら、箒の乗り方について会話している間に鍛錬場を何週かしてきた桜は、満面の笑みで地面に着地する。
かなり余裕が出てきていたのか、止まる少し前から視線が合っていた桜が、我慢できないとばかりに問いかけて来た。
「どうかな? 今の感じ」
「いいんじゃないか? これでまだ二時間経ってないんだから。確か、二年で習う授業で一年かけてやる内容だって聞いてたから、相当上手いと思う」
「えへへ、そうかな? もしかして、式神で空を飛んでたイメージが上手くいった原因かも」
自分の分身を生み出す式神。それに意識を移して操作することも可能だが、まさか飛行魔法にその経験が生きているとは勇輝も思っていなかった。
ただ言われてみればその通りで、元は紙とはいえ、ずっと浮遊させるということはそれもまた魔法の技術のはずだ。それに加えて、桜はその式神を用いて攻撃魔法を放つという高難度な技術を持っている。浮遊しながら攻撃魔法を放つという、魔法を二重に発動させる行為にも馴れていると言っても良い。
「あれ? もしかして、桜って実は相当スゴイことしてる?」
「え、急にどうしたの?」
いきなり褒めたことに驚いたのだろう。桜が杖に跨ったままの不自然な格好で固まっている。
「ほら、複数の魔法を同時に使うって、多分、難しい技術だよな?」
「そ、そのはず、だと思う」
「桜って、同時に三つ以上魔法を使っている時ない? 式神の召喚と維持、操作、式神越しの攻撃魔法」
「うーん。維持するのは魔力を流し続けるだけだし、操作もその発展――あ、でも浮かせてるのは、ちょっとコツがいるからあながち間違いじゃないかも?」
桜が縄から足を外して、杖から降りる。その背後にヴァネッサがぬっと姿を現した。
「――その話。詳しく聞かせてもらっても?」
「「わぁっ!?」」
急に出現した彼女に驚き、桜がよろめく。それを受け止めながらも、勇輝もまた驚きで声を上げてしまった。
「何ですか、人を幽霊みたいに。飛行魔法に慣れれば、このような急降下もできるのです。それで、途中から聞こえてしまったのですが、複数の魔法を同時に扱うとか?」
「えぇっと、まぁ、それっぽいことをしているような気がしないでもないというか……」
「くわしく」
一歩、詰め寄って来たヴァネッサに、桜が式神を実際に出しながら説明を始める。
最初は式神に目を丸くしていたヴァネッサだったが、そこは魔法学園の教授といったところで、すぐに式神という異国の魔法体系を受け入れていた。浮かんでいる桜の式神をあらゆる方向から観察したり、風を当てたりした結果、ヴァネッサの出した結論は意外なものだった。
「こちらの国の魔法体系だと、使い魔の使役、浮遊魔法、攻撃魔法の三重魔法ということになります。それよりも恐ろしいのは、その使い魔を独立した思考で動かせるところですね」
「えっと、恐ろしい、ですか?」
桜は自分の魔法が高く評価されることに戸惑いを覚えているようで、首を傾げている。
「えぇ、飛行魔法中に戦闘になった時、最も不利なのは追いかけられる場合になります。当然、魔法で迎撃するには見辛い背後へと攻撃をする必要がありますね? しかし、これを背中に一人用意するだけで話が変わります」
「逆に追って来る奴を狙い撃てる」
「その通りです。流石はガンド使い。射撃に関しての思考が早い」
追手の思考からすれば、一直線に最短距離で追って来たい。だが、それを視界に納めた状態の式神からすれば、魔法で狙うことができる絶好の的。当たれば追って来れないし、当たらなくても最短距離から離脱させることができる。
狙いやすいさの優位性を取り返した上で、敵に不利な二択を迫る。一石二鳥どころか三鳥の構えだ。
「それを考えないとしても、魔力の操作はかなり複雑。飛行魔法の使い手として優秀過ぎる逸材――!」
明らかにヴァネッサの桜を見る目が変わったのを、勇輝たちは見逃さなかった。
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