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空からの刺客Ⅱ

 流石に水を張る容器までは用意されているはずもなく、勇輝とフェイは桜たちの進捗を見守ることにした。


 彼女たちの練習も風の力場を生み出しながら飛行することが困難らしく、表情を強張らせながら左右上下にと揺れ動いていた。そんな彼女たちの救いは箒に縄がさらに一本追加され、その先が木の杭に結び付けられて地面に喰いこんでいることだろう。簡単には空へと急上昇してしまうことにはなりそうにない。



「うっ、これ、難しくないか?」



 マリーが呻き声を挙げて、地面に一度着陸する。両肩をぐるぐると回し、緊張をほぐしているようだ。


 その横ではアイリスとフランが既に箒から降りて、桜の様子を見守っていた。



「うん、難しい。正直、もっと簡単だと思ってた。でも――」



 今まで高難易度の魔法を見ただけで再現してみせたアイリスですら顔をしかめる難しさ。だからこそ、彼女の視線は桜に向けられているのだろう。



「――何で、桜はそんなに飛ぶのが上手いの?」


「わ、私でもわかんないよっ!」



 ふらつきこそすれ、桜の飛行は安定しており、初めて自転車に乗れるようになった子供みたいであった。戸惑いと嬉しさが入り混じった表情で、何度かヴァネッサに視線を送っている。


 そんな中、ヴァネッサは腕を組んだまま無言で桜を見ていた。まるで試験中の監督官か何かだ。ただでさえ、厳しそうな雰囲気を纏っているのに、そんな無言で見られては緊張してしまうのも仕方がない。


 しかし、桜はその視線を気にすることなく杖の上で飛び続ける。



「『――風よ』」



 一言、唐突にヴァネッサが呟くと同時に、横から強風が吹き抜けた。直撃した桜の体は横に流されるものの、すぐに元の位置へと戻っていく。


 周囲で見ていたアイリスたちはもちろん、勇輝も思わず感嘆の声が漏れた。



「ふむ、第二段階も合格です。非常に筋がよろしい。浮くことにかなりの慣れが見えますね」


「あはは、ありがとうございます」



 前を見て飛行しながらも、桜は何とか返事をしている。そんな彼女にヴァネッサは近付くとそっと背を押した。



「では、私が良いというまで少し前に移動を」


「は、はいっ!」



 押された速度を維持して、桜がゆっくりと進み始める。歩く速度よりも遅いくらいだが、数秒もすると桜が目を丸くして下を見た。



「あれ? 地面に固定してた縄は!?」


「先程の横風に紛れさせて切断しました。減速、停止はできそうですか?」


「や、やってみます」



 軽く杖の先を桜が引き上げると、数メートルほどスライドしてその場に止まった。



「残るは旋回、上昇、降下の三つ。その先を求めるなら急加速、急停止までですが、二時間でここまで来ているなら焦る必要は無さそうですね。旋回さえできれば、この鍛錬場を飛び回れるようにはなって、一気に習熟度がアップしますから、そこをやってみましょうか」



 ヴァネッサが旋回の説明を始め、桜がそれを実行に移す。ものの一分もしない内に、桜が鍛錬場を自由に飛行し始めた。


 旋回だけでなく蛇行まで始め、ヴァネッサの言った通り、どんどんと桜が飛行魔法を使いこなしていく。


 自由に飛ぶことで自信がついて来たのか、飛行する速度も上がり始め、気付けば駆け足くらいの速度になっていた。



「桜さん。なんだか楽しそうですね」


「そりゃ、楽しいだろうぜ。くっそー、あたしもすぐにできるようになってやる!」



 マリーは桜の姿に触発されたようで、箒に跨って練習を始める。だが、それも束の間、すぐにバランスを崩して箒から投げ出されそうになってしまった。


 すぐにフェイがそれを抱きとめるが、勇輝に向ける時と同じような呆れた表情でマリーに苦言を呈する。



「ムキになったところで上達はしないので、落ち着くところから始めましょうね」


「ぐっ、冷静に言われると、逆にイラッと来る……。いいよな、フェイは箒無しでも浮けるみたいだし」


「それは見ていない所で、たくさん練習していますから」



 満面の笑みでフェイが応えるが、勇輝は内心、逆効果ではないのかと不安を覚えた。

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