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飛行訓練Ⅴ

 勇輝は一度箒を置いて、ヴァネッサが用意してくれた水を飲みながら首を傾げる。



「あんなに熱心で、準備もしっかりしてくれているのに、箒に乗れるようにならない人が多いって、大変だな」


「飛んでからの方がいろいろ問題も起こるらしいですからね。そういう私も今の練習は辛うじてって感じなので、この先は難しそうです」



 フランが箒を浮かせながら苦笑いを浮かべている。そんな彼女の背に唐突に両手を触れて、マリーはその手を羽のように動かし始めた。



「吸血鬼だから、背中から蝙蝠の羽とか出して飛べそうじゃないか? それか自分自身を蝙蝠化して飛ぶとか」


「そういえば、フランのお父さんは凄い数の蝙蝠に分身して、別の場所に現れるとかやってたな」



 かつて、マリーの父が率いる騎士団や王都の騎士団が襲撃される事件があったが、その際にフランの父が騎士たちに囲まれながらも逃げ延びることができたのは、蝙蝠になる能力があったからだった。


 フランはその吸血鬼の真祖。言わば上位種なので、それが出来てもおかしくはないはずだ。


 アイリスもマリーの横で同意を表して、首を縦に振っている。



「うえぇぇ、無理ですよ。あんな怖い生き物になれるわけないじゃないですか、気持ち悪い」


「フラン。父親の前では絶対に言ってやるなよ。多分、それだけで倒れると思うから」



 今はどこかで生きているということしかわかっていないが、実の娘からそのように思われていると知ったら、父親としてはショックだろう。


 かつては敵対した相手だが、彼女たちの家系における事情を聞くと、同情できる部分も多い。思わず、二人の親子関係を心配してしまうのは無理もないだろう。



「あっ!?」



 少しばかりデリケートな話題で四人で談笑していると、桜の声が響き渡った。


 当然、四人の視線は桜の下へと集中し――



「……おいおい、何だよあれ!?」



 事態を把握しても、声がなかなか出て来ない。やっと出て来たのは、マリーの驚きと戸惑いに満ちた一言だった。


 まず最初に目に飛び込んで来たのは翼だった。桜の杖の先には翼を象った部分があるが、それとは別だ。オーロラを思わせるような薄い光の膜が、翼のような形で展開されている。



「魔力の放出、ではないですね。いったいこれは何でしょう。ミス・言之葉、魔力の急激な減少など体調に異変は?」


「と、特にありません」


「問題なく杖は浮かせることは出来ていますね。これは後でロジャー氏に確認を取るべきでしょうか……」



 数多の箒を乗りこなして来たであろうヴァネッサですら、見たことがない現象に困惑を隠せないでいた。


 そんな中、桜は不思議そうに光の膜を指で突いている。



「あ、これ触れるんだ」



 指に触れた部分がへこみ、離すと元の位置へ戻る。その動きからすると弾力性がある物体に見えなくもない。


 すると、それを見たアイリスが真っ先に駆けだした。



「不思議な、感触」



 どうにも新しい物を見つけて、好奇心旺盛なアイリスは触らずにはいられなかったらしい。見たこともない物を臆せずに触れる二人に感心しながら、勇輝たちも桜の杖の周りに集まった。


 いったい何が起こっているのか。勇輝は魔眼を開いてみるが、その詳細はすぐには理解できない。


 わかることといえば、杖の素材である枝を切ろうとした際に見えた、複数の同じ形の枝の輪郭。あれがはっきりと杖と翼の部分で別れていた。



「あれ? 杖の翼の部分。向きと形が少し変わってる?」



 肉眼に戻してみると、同一平面上にあった翼が浮き上がっていた。ちょうど、光の翼を縮小した形になっており、どう見ても何か関係がありそうだ。



「もしかして、ですが、これは柄が成功に加工され過ぎたために用意した安全策かもしれませんね。こうすることで、杖の上昇方向――つまり、上下の持つ場所を感覚的にわかるようにするため、とか……。いや、でも――」



 ヴァネッサは自身の考えを呟くが、自信がないようで、それ以降もずっと言葉を紡ぎ続ける。飛行訓練Ⅴ

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