飛行訓練Ⅱ
寮の前には既にマリーやアイリス、フランが待っていた。
「おはよう、桜――って、結局、デカいまま杖を持ち歩いてるじゃん。昨日、縮める呪文も習ってただろ?」
「えへへ、昨日は嬉しくて、このまま持って寝ちゃったんだ」
照れくさそうに言う桜に、マリーたちは呆れるかと思いきや納得したように頷いた。
「確かに、桜なら、あり得る。ネックレスが完成した時も、そうだった」
魔法学園のダンジョンをクリアした報酬。それを加工したネックレスだが、桜は身に着けていても、それが見えるようにはせず、服の中にしまっている。
あまりにも貴重な物なので、あまり衆目に晒すのは控えたいらしい。その為、それを表に出していたのは指で数えるほどしかなかった。それは、マリーやアイリスも同じらしい。
「確か、みなさんのネックレスはどれも魔力を保存し、取り出せる効果があるんですよね? 魔法使いとしては、かなりの貴重品になるので、その喜び方は桜さんじゃなくても当然の反応だと思います。私の場合は商人としての気持ちが強くなりそうですが」
フランは別の視点で彼女たちが持っているネックレスを羨ましそうにしていたが、彼女は既に命綱的な意味でネックレスを身に着けている。そして、それを着けていることを明らかにしていないと、警戒されてしまう立場だ。その為、彼女の胸には常に真っ赤なルビーが煌めいている。
「――みんな、揃っているようですね」
唐突に空からヴァネッサの声が降って来る。驚いて見上げると、地上五メートルくらいの場所に箒で浮いたヴァネッサがいた。
「第二鍛錬場を貸し切っているので、そちらに移動しましょう」
「すげえ、本当に箒で飛んでる」
「驚く必要はないですよ。今日の夕方にはあなたにもできるようになってもらいますので」
何の予備動作もなく、緩やかに動き出したヴァネッサを見て、勇輝たちは急いで後を追う。あまりの寒さに草が凍り、足を踏み出すに音を立てて、気持ちの良い音を立てて潰れていく。白い息が宙を舞う中、ヴァネッサは振り返った。
「鍛錬場に朝食代わりのスープを用意してあります。それを飲んだ後は、箒の選定の仕方や浮かせ方から始めて行きます。箒代わりの杖を持っているあなたも、箒のよしあしを見抜く能力は必要なので、やってもらいますからね」
「その、何でこんなに一生懸命やってくれるんですか? ちょっと、ご飯を作っただけですよ。私たち」
言われてみれば、当然の疑問だ。
たかが一食。しかも、プロではなく生徒が作った食事の礼に、国内トッププロの指導を受けられるなど対価として釣り合いが取れていない。何か裏でもあるのかと疑いたくなる。
「そんなことですか。それならば理由は簡単です。魔力制御に長けたあなたたちなら、飛行魔法を使う基礎力があると思っていたからです」
「魔力制御に長けたって……もしかして、以前から注目されてたみたいじゃん」
「みたい、ではなく、事実です。最初にあなたたちを見たのは、そこの黒髪の聴講生が、生徒会の用意した試験で炎の竜巻に巻き込まれた時ですね」
勇輝がこの世界に来てから、あまり日が経っていない頃の話だったので、思わず目を丸くする。まさか、そんな前から見られていたとは思ってもみなかった。
「先生なのに、あの炎を止めなかったの?」
「まさか、上空から救助に行こうとしたら、彼が無事だったのが確認できたので、成り行きを見守っていただけです。何かあれば五秒以内に助ける自信はありましたから」
自信満々に言ってのけるヴァネッサは、本当に実行できるという貫禄を感じさせる。その姿に圧倒されていると、目的地である第二鍛錬場が見えて来た。
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