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飛行訓練Ⅰ

「「新年、あけましておめでとうございます」」



 小鳥の囀りで起きた朝。改めて、勇輝と桜は向かい合って新年の挨拶を躱した。


 寒かったので、ベッドの上で互いに正座をした状態で、だが。



「桜、新しい杖がそんなに気に入ったんだな。抱いて寝るだなんて」


「杖って魔力を通した分だけ使いやすくなるって聞いたし、眠くなるまでに勇輝さんと話しながら魔力を流そうと思って」


「あー、そういう考えだったのか。ある意味効率がいいかもしれないな、それ」



 納得しながら、勇輝は桜の脇に置かれた杖を改めて見てみる。


 縮んでいた時とは違い、かなりの圧迫感をその大きさから感じた。もちろん、それは肉眼での話。魔眼を開くと、桜が触れてもいないのに彼女が纏う光と同じものを、杖もまた若干ではあるが放っていた。


 もしかすると、勇輝が今まで見て来た杖よりも魔力を保持する力が強いのかもしれない。



「今日は元日だし、一部の飲食店以外はやってないんだよな。どうやって過ご――」



 一日の予定を決めようとした時、唐突に、部屋の扉が叩かれた。しかも、ただのノックではない。今にも叩き破らんと言わんばかりの強さだ。



「ど、どちら、様――ですか?」



 おっかなびっくりと言った様子で、桜が問いかけると、返って来たのは寮の監督をしていたはずのヴァネッサの声だった。



「ミス・言之葉。新年早々、申し訳ありませんが、少し出て来ていただけますか!?」



 かなり興奮した様子で、さらに扉を何度か叩く音が部屋の中に響き渡る。このままでは、本当に扉が壊れかねない。


 しかし、尋常ではない様子の人物を急に招き入れるのも、それはそれで怖いものがある。勇輝は念の為に、心刀を片手に扉を開けに向かった。


 一度、扉の向こう側へ声を掛け、勇輝は音が止むのを待つ。一拍置いて、扉を開けるとヴァネッサが箒を片手に仁王立ちしていた。


 目の奥に爛々とした光を宿し、今にも飛び掛からんとする野獣のような雰囲気。思わず、勇輝は心刀の鯉口を切りそうになってしまう。



「えっと、あけましておめでとうございます。ヴァネッサ先生」


「えぇ、おめでとう。本来ならば、しっかりと挨拶を交わすべきなのでしょうが、今はそれどころではありません!」



 ヴァネッサは肩で風を切って桜の元にまで足早に近寄っていく。


 布団を引き寄せて後ずさりする桜を見下ろしたヴァネッサだったが、その視線は桜には注がれていなかった。



「昨晩、ロジャー氏から話を聞きました。箒の機能を持った新作の杖が完成したとか――しかも、かなりの名匠たちの手によって」


「は、はい。そうですが……」


「見せていただいても?」



 ヴァネッサの有無を言わさぬ声に、桜は怯えながらも杖を手渡す。


 興奮していたヴァネッサだったが、流石に杖を無下に扱うようなことはせず、ゆっくりと手を伸ばして受け取った。


 手で触れるなり、彼女の緑色の瞳が輝きを増す。


 手触りを確認したかと思えば、持ち上げたり下ろしたりして、様々な角度で杖を観察する。そして、驚くべきことに両手で杖を挟み込むようにしてから、少しずつ放していくと、触れてもいないのに杖が空中に留まっていた。



「う、浮いてる!?」


「風属性魔法の応用。飛行魔法の初歩ですね。なるほど、確かに箒の適正はあるようです。ポテンシャルも高そうですが、実際に乗るとなると話は別でしょう。世間ではいろいろと言われていますが、流石はロジャー氏の設計と言ったところですね」



 ヴァネッサは一通り見終わって満足したのか、桜に杖をそっと手渡した。そして、腰に手を当てると真面目な顔で恐ろしいことを言い放つ。



「さぁ、いつまでそんな恰好をしているのですか? 今日ならば鍛錬場でもどこでも飛び放題です! さっさと着替えて、寮の前に集合ですよ!」


「せ、先生、まさか今から飛行魔法の鍛錬を?」


「もちろんです。あなただけでは不安だと言っていたので、ミス・ローレンスたちにも声は掛けて来ました。安心なさい。この私が今日一日で飛行免許一級を取れるくらいまで特訓して差し上げます!」



 それ以上、言うべきことはないと、ヴァネッサは踵を返して出て行ってしまう。部屋の外から遠退いていく足音を聞きながら、勇輝と桜は顔を見合わせた。


 これは大変な一日になりそうだ、と。

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