新しい杖Ⅴ
フェイも本業は剣士で魔法はその補助として扱う程度なので、勇輝たちの後ろへと移動してくる。
「さて、そろそろだね。来年はどんな一年になるかな?」
「俺は、とりあえず平和に過ごせたらいいな」
こちらの世界では半年も経過していないのに何度死にかけたことか。魔王の復活も一部では噂されていることを考えると、平和以外に願うことはないと言っても良い。
「そうだね。元気に楽しく過ごせるのが一番だから、その為にも平和は大切だよね」
桜も笑いながら頷く。
彼女の場合は自身が作り出した式神越しとはいえ、腹を貫かれて死ぬ経験をしている。その点においては死にかけたよりもかなりハードな体験をしているだろう。
(……夢の中での死をカウントしたら、現実よりも死にかけてるか)
改めて平和とはほど遠い毎日を過ごしていることに勇輝はため息をつきたくなる。しかし、今は新年まであと少し。下を向くのではなく、上を向いて火球が撃ち上がるのを笑って待つべきだろう。
視線を腕時計に向けると、新年まで秒読み段階。教会が使っている水時計によって鐘が鳴るタイミングが決められているようだが、それに合わせてあるのでほぼ正確と言っていいはずだ。
「もうすぐ来るぞ」
勇輝が呟いて数秒後、街の中に鐘の音が響き渡った。
数秒遅れて、いくつもの紅蓮の尾を引く球が空へと上がっていく。ついで、天高く上がった火球が爆ぜ、その爆炎で街を照らし出した。
「メインストリートの真上すごかったな。炎を道が空にできてるみたいだった」
「もし次が会ったら、私も撃ってみたいな――って、アレ?」
唐突に桜の戸惑った声が聞こえ、勇輝は隣を見る。
桜の視線は空ではなく、彼女の抱えていた杖へと向けられていた。
「何か、杖が……」
柄の部分を握り直し、右へ左へと動かしながら桜は怪訝な顔で観察を続けている。
勇輝も何か杖に変化が起きていないかと警戒するが、肉眼でも魔眼でもその様子は見つけられない。
「何か、あったのか?」
「その、杖の大きさが小さくなった気がしない?」
桜が、勇輝に見えるように杖を両手で横向きにする。
それを見て、勇輝は確かに杖の長さが縮んでいるように思えた。桜の背丈とまではいかないものの、それなりの長さがあったはずのそれは半分ほどになっている。
二人で首を傾げていると、その杖がまた一段と小さくなる。慌てて、桜が手の幅を変えて落ちないようにすると、それに合わせて杖もどんどん縮んでいってしまう。
最終的には両の掌を揃えてはみ出る程度――つまりは、マリーたちが使っている杖と同じ長さくらいにまで変化してしまった。
「もしかして、ワンド型にもスタッフ型にも変形する杖かい? そんな杖、見たことも聞いたこともないけど」
「こ、これって、もしかして、持ち運びやすいようにロジャーさんが設計してくれてたってことかな?」
小さいままでも使えるのか、握る側は翼がついていない方か、と桜が興奮しだす。当然、その騒ぎを聞きつけてマリーたちが寄って来た。
桜が喜びながら小さくなった杖を見せると、マリーはアイリスと共に興味津々、フランは困惑と言った様子だ。
「これ、便利そうだな。普段は短く使って、外だったら大きくするとかで使い分けが出来そうだし」
「でも、こんな機能がある杖なんて出たら、また付加価値が……」
マリーは桜と一緒に使い方や利便性を語り、フランはさらに杖の推定価値が跳ね上がりそうなために頭を抱えている。
その様子を傍から見ていて、勇輝はどんな顔をすればいいかわからなくなってしまった。
「ま、いいじゃないか。彼女が嬉しそうにしてるんだからさ」
「そうだけどさ。いろいろ心配になるんだ。例えばマリーが常に超高価な宝石を身に着けて歩いていたら、お前だって警戒するだろ?」
「……実に頭の悪い例えだけど、よくわかった。確かに心配になるね」
片や結婚の誓いをした者。片や自分の使える主の娘の護衛騎士。大切な人を守らなければいけないという視点での考えは、一致していた。
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