新しい杖Ⅱ
「フェイ、フラン。世界にニ十本しかない木を素材として、魔術師ギルドのトップクラスが設計し、同じくトップクラスの職人が加工した杖。いくらで買えると思う?」
ここ最近、ずっと思っていたことを常識人代表のフェイと商人の卵であるフランに投げかけてみる。
未だに金を払わなくて良いと言われていることが気になってしまい、いくらか支払った方が良いと考えてしまうのだが、基準の値段がわからなければ渡しようがない。あまりにも不足する値段であったら、逆に相手に失礼なことにもなりかねないからだ。
「まず、シルベスター領の樹木は果実やその加工品が出回ることはあっても、『杖の素材』として使われているのは今までに聞いたことがありません。まずここに付加価値が生じます」
何事も初めて世に出た、という肩書は商品において価値が高くなることが多いという。単純に後の世におけるコレクター的なレア度という点でも、値段の基準が存在しないという点でも。
つまりは、欲しいと思う人がいれば、その分だけ価値は吊り上がる。そこには生産者がいかに信頼でき、有名な人物であるかも関係するだろう。
「その点において、シルベスター伯爵はこれ以上ないほど適しています。代々宮廷魔術師を輩出し、目立った不祥事もない。領地での評判もよく、今もその領民の生活向上を目指し続ける上昇志向や樹木を通した新商品の開発は、あらゆるところで人気を博していると言っても過言ではありません」
希少価値的にも有名度的にも高くなる。その意味を理解し、勇輝は冷や汗が流れ出ている気がしてきた。
「ロジャー氏の場合はどちらともいえないかもな。素晴らしい作品はあるけれど、世間一般の評価は『よくわからない物を作る』程度だ。一部の学者やギルド職員はその価値を高く見るかもしれないという点では、売る人によってピンからキリまで様々だろうね。あの杖がどんな能力を持っているのか、それが確認できれば価値も定まりやすいと思う」
今のところ分かっていることは、かなり魔力量が多い桜から魔力を注がれても平気でそれを吸い続けられていること。言い換えれば、それだけ強い魔法を使える可能性が高い。その意味では、熟練の魔法使いからすると魔力容量という点だけでも垂涎ものになるだろう。
特に強力な魔法を使う「紅」の称号を持つビクトリアのような魔法使いであれば。
「最後にドワーフ族による加工ですね。商会ギルドの傘下にある鍛冶ギルドには、純ミスリル工具をもつ名匠が三人いると聞いています。それぞれ一人に剣一本の指名依頼を出すだけで、最低でも大金貨が複数枚必要になるとか」
「逆に聞きたいんだけど、それはお客さんが少なすぎてやっていけないんじゃない?」
いくら一度に入る金額が多くとも、客が来なければ廃業必至。しかし、フランは首を横に振る。
「ドワーフの方々は鍛冶以外では質素な暮らしをする方なので、生活費にはあまり困っていないです。それに国からの補助金を受けて、住んでもらっているので、金銭面でも通常は困ることはありません」
「ミスリル原石の加工をしてもらって、城壁を作らなければいけない地域はいくらでもあるからね。その点、ドワーフの技術はファンメル王国的に逃したくないということなんだろうね」
話が逸れだしたが、勇輝は二人の話を総合して考えてみた。その結果だが、恐ろしい数字が思い浮かんでしまい。頬を引き攣らせる。
加工費を抜いた指名料を最低でも二名。そこからの加工費を考えると最低でも白金貨一枚は超える。そこに指名料と同じくらいだと考えたロジャーの設計費と希少性のあるシルベスター領の出回っていない木材の費用が追加。
「白金貨、何枚?」
「場合によっては大白金貨の可能性もありますね……」
三人の視線が推定一億円にも届きうる杖へと注がれた。
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