新しい杖Ⅰ
ソフィが帰り、六人となった寮の部屋で、勇輝たちは談笑していた。当然、その話題は桜の杖のことについてだ。
「桜の杖は実際に魔法を使ってみるまでは性能が分からなそうだよな」
「そうだね。結構、魔力を注ぎ込んでるけど、すごい吸われてる感覚がある。もしかすると、私の普段の魔力量くらい、全部籠められるんじゃないかな?」
桜が杖の柄を撫でながら呟く。
単純な杖の体積が増えただけでなく、その中身も保持のしやすさや、魔力の通りやすさのレベルが文字通り違う。勇輝は魔眼を通して、それを目の当たりにしていた。
(おい、あの杖の光り方がヤバいんだけど、いきなり爆発とかしないよな)
『どう見えてるかは知らないが、同じ武器としていうならば、杖自体が軋む音も何も聞こえない。つまりは、何の問題もないと思うぞ』
思念で心刀が心刀なりの視点で安全を謳うが、勇輝には心配で仕方がなかった。
どんなに桜の体から杖の中に魔力が取り込まれても、杖から放たれる白い光の光量が変化していない。
このことから考えられるのは、杖に魔力が溜め込まれているのに勇輝の魔眼が認識できていないか、無駄に消費しているか。或いは、何かしらの魔法が発動しているかだ。
ロジャーが刻み込んだ魔法の術式に魔力が消費されていると思いたいが、どこかしら不安が残る。
「まったく、君は心配性だな。その顔を見るに、ロジャー氏が刻み込んだ魔法が分からないまま魔力を注ぎ込み続ける彼女が、心配で仕方がないといったところかい?」
フェイに考えていることを当てられて、黙って顔を逸らす勇輝。その反応を怒るでもなく、笑うでもなく、真剣な表情でフェイは話し続ける。
「あのご老人にお会いしたのは数えるほどだけど、悪い人じゃないと思う。まぁ、根拠がないと言えばそれまでだけどさ」
フェイは肩を竦めて、勇輝の肩に手を置く。
「それにこっちの国に来て、君と同じように急成長をしたんだ。彼女の実力をもう少し信用してあげたらどうだい?」
「それを言われたら、頷かざるを得ないだろ」
勇輝は魔眼を閉じると、顔の向きを元に戻す。
マリーやアイリスが火属性や水属性の魔法を魔力制御で器用に動かせるように、桜もまた土属性の魔法に関しては、かなりの精度で魔力をコントロールできている。少なくとも、留学半年でできる芸当ではないことは、ファンメル王国の魔法に詳しくない勇輝でもわかることだった。
「それで、これは僕の予想なんだけどね。彼女の杖、ビクトリア様の使っている杖と同じタイプだと思うんだ」
「そりゃ、そうだろ。長さを見れば、すぐにわかる」
マリーたちが普段使っているのは長くても三十センチほど。それに対して、今の桜が持っているのは一メートル近くある。形こそ違えど、長い杖というカテゴリーでは同じはずだ。
「それもそうなんだけど、僕が言っているのは『杖の格』みたいなものだよ」
「杖の、格?」
勇輝が怪訝な顔をすると、神妙な顔でフェイは頷く。
示し合わせることなく、二人の視線が桜の持つ杖に向けられた。ちょうど、窓から差し込んでいる薄い月光のような白い木肌が目に飛び込んでくる。
「ライナーガンマ家が代々使う魔法剣。宮廷魔術師として幾度も魔法を使い続けたビクトリア様愛用の杖。どちらにも共通するのは、年月を重ねてより強力な魔法を使うことができるようになったという点だ。まだ、その年月を重ねていない状態にもかかわらず、あの杖にはそのポテンシャルがあると、僕の勘が告げているんだよ」
「まぁ、実際にあれだけの量の魔力をずっと吸い続けてるからなぁ。シルベスター伯爵の手で作られた新種の樹木だし、それくらいのことはあってもおかしくないか――いや、おかしいな。どう考えても」
数十年かけて育て上げた杖が、新品の杖に抜かされる。技術革命ならぬ素材革命が起こったとすれば、桜の杖を知った他の者は一体どういう反応をするか。
どことなく嫌な予感がする勇輝だったが、あえてそれは考えないことにした。
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