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年越しパーティーⅧ

 溝に流れ込んでいた銀が振動していたのだが、次第に収まり、動かなくなる。


 発光もなくなり、桜の持っている杖に彼女の魔力が戻っていった。ぼんやりと白い光を杖が放っているが、特に何か変化があるわけではない。



「――よし、帰っていいぞ」


「え、もう終わりですか?」


「うむ、終わりだ。後は日を跨ぐまでじっくり魔力を注ぎ込んでおいてやれ。友人と語らいながらな」



 呆気なく終わりを告げた儀式に、桜はもちろん、ついてきた面々から驚きの声が上がる。


 それを前にしても動じることなく、片付けを始めるロジャーだったが、一瞥した後にため息交じりに答えた。



「魔力を通せば通した分だけ、より杖の性能は上がるのだろう? だったら折れた杖の分を取り戻ためにも、こんな所で立ち話はどうかと思うぞ?」


「よーし、じゃあ、そこの椅子に座らせて、みんなで話そうぜ」


「それは儂のイスじゃ、馬鹿もん!」



 マリーがロジャーの机の後ろに回り込むが、ロジャーの杖が振られる方が早かった。椅子の背もたれに手を掛けようとしたマリーの手が空を切り、後ろに下がったイスによって腹にダメージを受けてしまう。



「まったく、親子そろって変な行動力があるからいかん。言っておくが、誉め言葉ではないからな」



 マリーは苦笑しながら口を開くが、その前にロジャーに釘を刺されてしまい、何とも言えない表情になってしまう。



「マリー、ある意味では、誉め言葉、だよ」


「どういう意味でだ?」


「子は、親に、似る」


「嬉しくないっ!」



 アイリスの頬を両手で抑えて震わせ始めるマリー。それを周囲が止める中、ソフィだけは桜の杖をじっと見つめていた」


 戻って来た桜は、その視線には気付かなかったようで、大切そうに杖を手で擦る。



「どう? 感触とか魔力の流れ具合とかは」


「前の杖と違ってしっかり手で感じることができる点で、まず新鮮かな。ちゃんと磨いてあるから、逆立っているところもないし肌触りは最高。触ってみる?」


「じゃあ、お言葉に甘えて」



 勇輝は人差し指で持ち手になっている部分をなぞってみる。すると、ひんやりとした木の温度と同時に、滑らかな肌触りを感じて、勇輝は何度か瞬きする。


 桜が魔力を流すまでは黒かった杖だが、今では白くなっている。それこそ、元の木の黒檀から桐に変化したかのように。



「本当はみんなにも触らせてあげたいけど、何かあったらいけないし、勇輝さんだけね」


「じゃあ、その時はあたしが一番なー」


「ふふっ、そういう時は拳で語ると良いんじゃないかな?」



 いつだったか、勇輝とフェイが茶碗蒸しを奪い合ったのを揶揄したのだろう。桜の予想外の発言にマリーではなく、遠くで見ていたフェイが動揺を隠し切れずに咽ていた。


 フェイの珍しい姿にマリーが、肩を組んで頬を人差し指で押し、アイリスが脇腹を突き始める。何もなかったかのようにふるまおうとするフェイだったが、二人の前では無意味だろう。



「桜さん。私はそろそろお爺様と過ごす時間が近付いてきたので、失礼しますね」



 いつの間にか桜へと近付いていたソフィが、他のメンバーには伝わらないように小さな声で別れを告げる。



「ありがとう、ソフィちゃん。年末の貴重な時間を一緒に過ごしてくれて。こんな風に過ごしたの初めてだから、楽しかった」


「えぇ、私もです」



 ソフィは頷くと、手招きをする。


 桜が首を傾げながらも屈んで耳を向けると、ソフィは両手で口元を覆い、勇輝にも聞こえない声で呟いた。



「その杖、かなり魔力を溜め込めそうです。あまり魔力を早く流していると、魔力切れになってしまうと思うので気を付けてくださいね」


「わかった。ちょっと嫌だけど、ポーションを飲みながら頑張ってみる」


「――それでは、また」



 桜から距離を取ったソフィは、背後で騒いでロジャーに怒られているマリーたちの元に戻ると、桜にしたのと同じように別れの言葉を告げていく。



「それじゃあ、ロジャーさんの迷惑にもなるし、戻ろうか」


「うん」



 勇輝と桜も、ソフィの後を追うようにして、仲間の元へと戻っていく。

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