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年越しパーティーⅦ

 壺が溝の近くで傾けられると、銀色の液体が注ぎ込まれていく。徐々に溝が白銀に染まっていく中、勇輝は慌てた表情でロジャーに近寄った。



「まさか、水銀じゃないですよね?」


「ふっ、確かに錬金術においては、水銀と硫黄は切っても切れない関係にある。しかし、安心しろ。水銀が人体に有害なことは百も承知。あれは単純に溶かした銀だ」



 液体を注ぎ終えた壺をどかし、ロジャーは机の上に並べた三つのポーションの瓶を桜の元まで運ぶ。



「夕食後に悪いが、飲むと良い」


「えっと、ポーションを、ですか?」



 せっかく時間をかけて作った料理を食べた後に、苦いポーションというのは酷だろう。しかし、勇輝はロジャーが魔力を大量に消費することを踏まえて、それを用意したことを察していた。



「もしかして、加工の時と同じように?」


「それに近いものはある」


「じゃあ、何で必要かを話してからの方が桜も飲めると思いますよ」


「……それもそうか」



 ロジャーは銀色の光る魔法陣から離れ、語り始める。



「これから年を跨ぐまでの間、嬢ちゃんには杖に魔力を流し続けてもらう。杖に術式を刻み込むために」


「もしかして、ここにずっと?」


「いや。一度、術式を刻み。あとは陣の外でも部屋でもどこでも構わん。魔力を流し続けるだけだ」



 ロジャーはそう告げると、振り返って桜に正対する。



「恐らく、この世にまだ存在しない。最高峰の杖だ。それをさらに嬢ちゃんに最適化させた上で、新しい能力も付与する。これを作れるのは、この時をおいて他にない」



 ロジャーの目には、これ以上ないという程の自信に満ち溢れた力が宿っていた。恐らくは、それだけ貴重な能力が付与できることと、それを実行できるだけの理論があるからだろう。



「天体系か、時空系が関わる魔法?」



 アイリスが問うと、ロジャーは小さく頷く。



「年を跨ぐというのは、概念としては比較的新しい部類の理論でな。それを応用したものだ。概念系と時空系の合わせ技とでも言っておこう。能力は成功してのお楽しみ、ということじゃよ」



 失敗しても何も起こらず、成功すれば必ずその有用性に気付くとロジャーは言ってのける。


 サプライズをしたいという気持ちはわかるが、勇輝はそれ以上は、ロジャーの機嫌を損ねるだろうと口を閉じたまま成り行きを見守る。



「さて、溝に流し込んだ銀を液体のまま維持するのも大変だ。それを飲んで、一気に杖から魔法陣へと魔力を流せるかな?」


「わかりました。やってみます」



 桜は翼がない方の先端を石畳につけて肩に杖を置くと、ポーションを一つずつ飲み始めた。総量はそこまでではないが、それでも夕食後であったことで飲み切るのは大変そうだ。


 目をギュッと瞑って、咽ながら飲み干すと、瓶を掌の上に置いたまま前に差し出す。すると、ロジャーの魔法によって、瓶が机の上まで浮いて戻っていった。



「けほっ、これで魔力を流せばいいんですよね?」


「うむ。魔法陣に行き渡りさえすれば、十秒もいらん。思いっきり流せ」



 ロジャーの返事に桜は頷くと、呼吸を整えて杖を両手で持った。


 先端を自身の前につけた状態から、地面に垂直に立て、ゆっくりと目を開く。



「――えいっ!」



 勇輝は何が起こるのかを確かめる為に魔眼を開く。


 直後、掛け声と共に桜の魔力が石畳に流れたかと思うと、銀色に染まった溝に吸い込まれていった。


 魔法陣の基本となる円の中には、正三角形を角度をずらして四つ敷き詰めた十二芒星が描かれている。その他に記号はなく、それらの図形のみ。


 そこに魔力が行き渡ると、銀が光を放ち始めた。



「――よし、魔力を吸い上げろ!」


「はいっ!」



 ロジャーが杖を石畳に向け、桜へと合図を送る。


 桜が魔力を吸い上げると同時に、液体の金属が一緒に戻ろうと浮き上がりそうになる。しかし、それを今度はロジャーが流し込んだ魔力で無理矢理、位置を固定。桜へ危害が及ばないようにしていた。

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